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クラマラス 27話 (長編小説)
文化祭まで数日。僕たちは準備に追われている。
今年は色々とすることがあるので忙しさが段違いだが、去年も忙しかった。
別に嫌いではない。学校中が1つのことに向かって何かをする高揚感みたいなものがある。僕たちのクラスの模擬店は屋台で鉄板焼き、焼きそば、お好み焼きを売る。
マーケティングをし、材料の仕入れ量を決めたり、どの場所で店を開けば売り上げがいいのかリサーチしてその場所を他のクラスと取り合うためのプレゼンをしたり、屋台のレイアウトや売れるためのアイデアを出し合ったり、クラスのみんなの得手不得手を考えやってみたい人を考え人選していた。
クラス全体で『何かをやる』って言うのは苦手だったがうちの担任『村井』はそのことをよくわかっているようで・・・と言うより村井の天性の人懐っこさを発揮して全体を上手く巻き込んでいた。
村井の事をよく知らない人にはそれを『村井の魔の手』と言って嫌な顔をしていたが、あの人はあの人でちゃんと相手のことを見て、どう接すればその人が一番力を発揮するのかわかっている。
それをクラスの誰もが知っているので『村井の魔の手』を甘んじて受け入れているのだ。確かによく回る。
いつもはクラスで目立たない人も今回の準備で大役を任されやってのけていたり、人気者の役職を分散させて組み化学反応を起こすことで準備の大変さはほとんど感じられず。『楽しい』とさえ思えた。
「え?それって凄いよね」
北野さんが5組の文化祭の状況を話すと驚いていた。
「そうかな?」
「そうだよ。だってうちなんかさ、やる気のある人とやる気無いけどやらされている人と文化祭に部活で出るからあまりクラスの出し物に参加しない人といて熱量が全然違うよ」
「そうなの?・・・まぁ確かに5組は村井と付き合いが長いからね。僕なんか2年目だし、クラス全体も半分くらい2年の付き合いだから村井のやり方が染みついているんだろうね。だから受け入れられるし、クラスの中で目立つ目立たないはあるけど、だからと言って人気者の人が目立たない人をいじめるなんて話を全く聞かない。『話が合わないから一緒にはいない』って感じ?だからクラスで何かをやるって時には適材適所にしても話を聞かないなんてことはないんだよね」
「なるほど。いいなぁそんなクラス」
「それぞれにリーダーがいて、意見を出し合ってまとめて形にしていくんだ、経過はホームルームで報告されてね、なんかもう会社を経営してるみたいだよ。だけど雰囲気は好きだけど少し面倒」
「何それ?葛西くんは贅沢だなぁ」
「そうだねぇ僕は贅沢だ」
「で、葛西くんは何をするの?」
「僕はね、当日の店番」
「え?それだけ?」
「後は屋台の飾りをリーダーの指示を受けて作りましたよ」
「何かこう・・・店の経営に関してとか、参加はしてないの?」
「うん、そう言うのは他の人にお任せで」
「葛西くんは商売の才能無いね」
「うん・・・そうそう・・・おい!辛辣だな!」
そう言って二人で笑った。
「あ、でも、1日目の校内発表の模擬店紹介の曲は作ったよ」
「え?何それ、凄いじゃん!」
「クラスみんなで歌うんだよ。楽しみにしてて」
「本当?楽しみだな」
「うん、目指すところは変な模擬店紹介」
「ふーん、村井先生はちゃんと葛西くんの適材適所も考えてるんだね」
「うん、悔しけどね。村井の手の中で踊らされていますよ」
以前の僕なら村井先生に模擬店の紹介で『ギターを弾いてくれ』なんて言われても断っていただろうし、そもそも村井がそんなことを言ってくることはなかっただろう。しかし今は違う。少しでも誰かが必要としてくれるならやってみようと思っている。それすらも村井に見抜かれているのが癪に障るが。
文化祭当日。文化祭は2日に分けられて行われる。金曜日の1日目は校内発表。
全校生徒が体育館に集まってそれぞれの出し物を見る。吹奏楽部は出るし琴部も出る。書道部も出て日本舞踊部も出るみたいだ。文化部でステージパフォーマンスが出来る部活はとりあえず出演する。
運動部の人も出演したければカラオケでもなんでもエントリーすればOKと言うフェスみたいな感じだ。クラス単位でも出演できる。その他には翌日の模擬店のコマーシャルを各クラスが行う。これに命をかけているクラスもあれば、ここにはあまり力を入れないクラスもある。どこもクラスの特色が出る。
ちなみに1日のステージでのスケジュールは生徒会が全て取り仕切り職員の出し物すらも生徒会が調整する。すなわちこの日は全て生徒の手によって企画運営されているのだ。
翌日の一般公開も模擬店はほぼ全て生徒の手によって行う。さすがに警備みたいな防犯は大人がすることになるが、この2日間は生徒と教師も含めてそれぞれに楽しむ日なのだ。
軽音楽部も発表することになっているが今日の出演は翌日の運動場で行うライブのコマーシャルも含まれているため前哨戦の意味合いが強く部長の選んだバンドが出演。僕たちは結成したばかりだと言うことで本日の出演を外された。悔しいが仕方がない。実績はこちらのほうにあるがまぁ譲ってやろう。
「どうして僕たちは出られないんですかね?」
大原が文句を言った。
「しょうがないじゃん時間に限りはあるし、バンドは準備片付けにも時間が掛かるんだから、その代わり明日の持ち時間は長く取ってもらったしいいだろ?」
新谷がそう言う。
「そうですけど、僕たちが出たら一発で明日も見に行こうってなりますよね?葛西さん!」
「え?うーん、どうだろう?そうなってくれれば嬉しいけどそうも行かないよなぁ」
「そうなんですか?」
「そうそう、僕たちが出るより学年の人気者が出たほうがいいんだよ」
「あぁあの『カウンタースター』ってやつですか?2年生の。あいつらはっきり言ってレベル低いですよ。なんか勘違いしてるんじゃないんですか?カッコよさってやつを!」
「そりゃ確かにビジュアル意識しすぎて『いかにも』って感じがダサいけどそれがわかりやすくていいんだから」
「だけど!演奏下手だし、MCは大抵流行ってるお笑い芸人のネタを中途半端にやって『いや、できないから』って一人ツッコミして内輪で笑って、自分たちは面白いって勘違いしてる奴らでしょ?」
「見てるこっちはわからなくて何が面白いのか判別つかないようなバンド内でのやりとりを説明無しでやったり?」
浦野が入って来た。おい煽るなよ。
「そうですよ!そんな奴が軽音部の顔だなんて部長は何もわかってない!」
「まぁまぁ落ち着いてくれよ、5組のガールズバンド『ポップピップ』も出るんだからいいじゃない」
「そりゃ葛西さんは『彼女たちの方が先に組んでたのに俺たちが出たら恨まれる』って思ってるからそれでいいって感じなんでしょうけど」
「そうなんだよねぇやっぱり花を持たせてあげたいじゃん」
「もういいですよ、うちのリーダーがそれでいいと決めたのならもうそれで・・・」
「え?僕ってリーダーなの?」
僕はちょっと驚いた。バンドを組んでからリーダーというものを意識したことがなかったので突然そう言われて。
「そうですよ!しっかりしてくださいよ」
「うん、ごめんごめん」
僕たちはそんなことを話しながら体育館での準備を進めていた。何やら生徒会長と部長が話をしている。横目で見ながら「部長、手伝えよ」と呟きアンプを運んだ。
文化祭が始まった。大まかなスケジュールでは午前中は文化部と有志の発表。軽音楽部のライブも午前中にある。昼休憩を挟んで午後の部では翌日の模擬店の各クラスによるコマーシャル。そして地方大会まで進んだ吹奏楽部の演奏によって大団円となる。
北野さんは出られるんだろうか?
僕たち軽音楽部は出演しない人も舞台の準備のために駆り出される。午前中はずっと舞台袖だ。
オープニングが始まった。生徒会役員による開会の挨拶。そのすぐ後に『カウンタースター』のライブだ。オープニングアクト的なノリなのだろう隣にいた部長に話しかけてみた。
「一発目に『カウンタースター』って部長が決めたの?」
「そうそう、あんなんでも人を、特に女子を引きつける能力は高いからね、客寄せパンダだよ」
「そんな身も蓋もない。部長もあいつらの能力をわかってたんだ」
「まぁ一応部長だし」
笑ってしまった。
「ごめんな、本当ならお前らを出したいとこだったんだけど」
「いいよいいよ、選んだメンツの理由もわかるし、適任適任。ただ大原はぶちぎれてたけどね」
「まじか!こわ!」
もう一度僕らは笑った。
「なら、あ、うーん・・・まぁいいや。今日明日と楽しもうぜ」
「ん?今何言おうといた?」
「あぁいいんだいいんだ。大丈夫」
「あ、そう・・・楽しもうぜ!」
「おう」
何かありそうな気がしたがまぁいい。言いたくないなら聞かない。
ステージは順調に進んでいった。笑いをとる部活。緊張感に包まれながら見る部活。それぞれが本当に個性的だ。こんなにもこの学校には個性的な人たちがいるんだ僕は3年もいて気がつかなかった。自分の中に閉じこもっていたからだろうこんなに感じられることがあるのは嬉しい。
北野さんのおかげだ本当に。後でちゃんとお礼を言おう。
「え!まじか!」
舞台袖の隅の方で部長の驚愕した声が響いた。ステージまで聞こえていないか気になったが今は『ポップピップ』のライブをしている。下手くそだが愛嬌がある音。これは好きになってしまう。
部長の驚きの声はステージまでは聞こえていないようで安心する。全員が部長の方を見て様子を伺い僕も例に漏れずに見ていた。
僕の視線に気づいたのか部長はこちらに向かって歩いてくる。
いや、なんだよ?何故こっちに一直線に来る?
「なぁ、葛西、ちょっと相談なんだけど」
緊張が走った。
「何?どした?」
「葛西さ、今日、クラスコマーシャルで使うためにアコギ持って来てたよな?」
「うん・・・そうだけど・・・」
「ごめん!これから出てくれないか!」
「・・・は?何?え?どう言うこと?」
「いやそれがさ、今日これから出演予定の『野草研究部』がさ昨日採った野草を食べたら腹壊したみたいで今日全員休んでるんだよ。だからその穴埋めに出演してくれないか?」
『野草研究部』?なんだその部活?野草食べたら腹痛?大丈夫なのか?いろいろ気になることが盛り沢山だが。今はそれどころでは無い。
「なんで僕?『ポップピップ』の時間増やすとか時間調整は出来るだろ?」
「それがさ、みんな出来る曲が無いんだって。他に部活もない。また新たに募集するのももう時間がない。だからアコギがあって弾き語りが出来る葛西に頼むしかないんだよ」
なんか無理があるような?でもこれしかないのか?
「出番は?」
「この次の次」
「もうすぐじゃん!」
「そう!だからお願いできる人にお願いしてる!」
なぜ、もっと早くできなかったのか?
「生徒会長が色々動いてたんだけど間に合わなかったみたい」
「朝、話していたのはそのことだったか」
「そう、頼む」
「うーん・・・あ、ちょっと待ってて」
僕は思いついたことがあった。
僕は舞台袖を抜け出て客席に向かった。この盛り上がっている状況でしかも次の出演者はダンス部だ。ダンス部の次に1人で出て行って弾き語りをするほど心臓は強くない。だから助っ人を呼ぶ。僕は3年3組の席に一直線に向かっていた。
葛西くんが何故か私の前に現れた。何?何?いきなりどした?
「北野さん、君が必要だ」
ステージでは軽音楽の音が鳴り響いている。葛西くんの声は大きくなる。周りにいるクラスメイトに声を聞かれた。周りの人たちは冷やかすようなことを言ったり「キャー」と小さく悲鳴を上げて私たちのやりとりを私の次の言葉を待っていたようだった。
「何?どう言うこと?」
「一緒に来てくれないか?もう、時間がないんだ」
「は?どこに?」
「舞台!」
「は?なんで?」
「え?あ。うん」
葛西くんは落ち着きを取り戻したようだった。
「今、色々な事情があって僕が出演しなきゃいけなくなった。1人じゃ嫌だから一緒に出よう!」
「いや、何を一緒にするの?」
まだ葛西くんは落ち着いていないようだ。
「河原でやってたやつだよ。ギターとトランペットで一緒に演奏しよう」
「トランペット・・・」
私は頭から何かが抜けていく感覚に陥った。
「できる!北野さんはできるよ!いつもやってるやつをやればいいんだ」
部長の梅澤が私たちのやりとりを聞いてこっちにやって来た。
「北野。トランペットは私が取ってくるから舞台袖に行って打ち合わせをして」
ステージの演奏は終わり、次のダンス部の準備に入った。
「でも・・・」
「大丈夫。行こう」
葛西くんに手を取られ私は舞台袖へ走った。