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目玉焼き(短編小説)(ショートショート)
「血液まで沸騰しそうだな」
茹だるような夏の暑さに負けっぱなしで3日ぶりに外に出た。
「血液は沸騰しないか」
一応そういう常識は知っている。
「沸騰以前にそれほどの暑さなら身体が蒸発してしまうよなぁ」
恐ろしいことを考える。
「俺はなんで外に出てしまったんだろう」
スマホの天気予報アプリからの通知が『今日はエアコンの効いた部屋で過ごしましょう』と来るたびに外に出ることが億劫になってしまう。
「部屋の中にいればよかった」
そうなのだが3日部屋から出ない日々を過ごすと妙に社会と隔絶された気持ちになってしまう。在宅で仕事をしているから社会とは繋がってはいるのだが・・・
「でも、食べる物もう無いしな」
そうだった。俺は今から食べ物を買いに行くのだ。
「スーパー、寒かったぁ」
高温の中で汗をかき濡れたままスーパーに入ると体が冷える、寒い。でも今は暑い。
「もう、どっちかにしてくれぇ」
暑いのは嫌だ。でも寒いのも嫌だ。ちょうどいいのがいい。
「あぁこれって熱いんだろうな」
横には手すりなのか、通行を制限をするためのものなのか、ただのオブジェなのかよくわからない球状のものが置かれている。
「ここで、目玉焼き焼けるんじゃ無いかぁ〜」
「卵買ったし、やってみるかぁ〜?」
「目玉焼きには塩胡椒かな?醤油かな?ソースかな?」
徐に買い物袋に手を伸ばす。
暑さで頭がおかしくなったという自覚がある。
「いやいや、何を馬鹿なことをやっていのか」
興味はあるが、こんなことやっていいはずがない。常識は弁えているつもりだ。
「そもそも、目玉焼きができるとして、こんな雨ざらしになって、誰が触ったかもわからないような場所で作ったものなんて、誰が食べるかよ」
でも興味はある。
「それに球状になってるから、多分留まらず下に流れていくだろうな」
でも興味はある。
「いやいやいや」
でも、材料は揃っている・・・・
しばらく、考える。蝉のリズミカルな鳴き声のリピートに徐々に頭が支配されていく。
「やるわけないだろう・・・」