クラマラス 20話 (長編小説)
僕たちはライブハウスに来ていた。
「どうも、よろしくお願いします」
「はい、よろしく〜」
ライブハウスが開く少し前の準備の時間に尋ねて欲しいとマスターから一報があり僕たちはライブハウスに来ていた。
「対バンだっけ?OGRの谷岡さんがそろそろ来ると思うから」
「わかりました」
ライブハウスの名前は『キャラバンサライ』意味はよくわからない。内装はアメリカテイストのグッズが置かれていて、ライブハウスというよりはレストランやパブに近いような感じ。食事をしながら音楽を聴くような場所なのだろう。
お世辞にも広いとは言えずステージも段はなく客席からの距離も近い。マイクスタンドがステージと客席の分かれ目の役割のようになっている。
カウンター席とテーブル席が5台。満杯に入って50人くらいのハコだろうか。
思っていたライブハウス像とは違うがこれはこれで楽しそうだ。そんなことを考えていたら誰かがお店に入ってきた。緊張したがそれはすぐに解れることになる。
「いやぁども、谷岡です。君たちが『クラマラス』?」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「よろしくよろしく。聞かせてもらったよ曲」
「え?どこでですか?」
「あれ?言っちゃダメなやつだったかな?大原店長に『うちの息子がやってるバンド、なかなかいいから聞いてみて』って言われてね」
「そうだったんですか」
「親父のやつ、勝手に録音してたのか」
大原は怒っていたが
「そのおかげでこうしてチャンスが出来たんだからいいでしょ」
と新谷が言った。
「勝手に聞いてごめんごめん。でも良いと思って、一緒にライブしたいなと思ったのよ」
「そう言う事だったんですね。ありがとうございます」
「うんOK。で、ライブに向けて決めておかなければならないことがあるんだろ?」
「そうなんです。うちの顧問から色々言われまして。喫煙と飲酒、時間にチケット代の問題をクリアしないと出すことは出来ないって」
「なるほどなぁ今はそんなに厳しいのか・・・おじさんの若い頃はあまりそんなことはなかったなぁ。ねぇマスター」
「そうだな、俺も高校の時にはやってたな」
「そうだったんですか、羨ましいです」
「でもまぁ喫煙はこのご時世で3年前に全面禁煙にさせてもらったからクリア。チケット代はうちは貰わないことにしてる。その代わりライブをする為の店のレンタル料ってことで1万円頂いているけど、谷岡さんどうする?」
「あぁ、いいいい。それはうちらが払うから」
「それで経営は大丈夫なんですか?」
浦野め、余計なことを。
「それとは別に入場料取ってるし、食べ物の注文で利益も出るから大丈夫よ」
「そうなんですね」
「そう、それに入場料は一定額以上行けば出演者にバックしてるからたくさん呼べば演者の利益にもなる」
「そう言うシステムなんですね」
「そうそう、良心的だよね。ありがたいよ。で、飲酒に関してはどうしようか?」
僕は1つ案を出そうと思った。
「あの、良いですか?」
「もちろんどうぞ」
「ありがとうございます。飲酒の問題なんですけど、僕たちのライブが終わるまでは飲まないでもらって終わり次第提供するって形になりませんか?」
「なるほど・・・うん、それで行こうか、君たちの友達も見に来るんだろ?」
「多分そうですね」
マスターが僕の案を飲んでくれて続きを提案してくれた。
「だったら、時間は18:00開場の18:30開演にしてそこから『クラマラス』どれくらいの時間やってもらう?」
谷岡さんが優しい笑顔で
「1時間はしてもらおうかな」
1時間!?僕たちは結構な時間をくれたことに驚き顔を見合わせた。
「良いんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「おう、良いよ、うちとそっちの2バンドしか出ないし、それにうちらもそんなに長い時間は出来ないしね。だから1時間やってもらえばこちらとしても助かるのよ」
「そうなんですね。わかりました。1時間やらせてもらいます」
もう何曲かレパートリーを作らなければいけない。
「でだ、19:30までやってくれたら、見にきてくれた友達は保護者の同伴がない場合はそこで帰ってもらう。そうすれば時間もクリアできるっしょ?」
「なるべく君たちも早く帰すようにすれば良いんだね」
「はい、それならクリアです」
「よし、ならそれで」
「楽しみにしてるよ」
「ありがとうございます!」
次の日、昨日のことを顧問の福井先生に報告へ行った。
「まぁ大体はいいけど、やっぱりお前らが何時に帰れるのかわからないんじゃ、許可できないな。残念だけど」
「でも、店側も早く帰してくれるって言ってます」
「口約束だろ?あてになりません」
みんな怒っていた。このままでは僕たち以外にもお店や谷岡さんに迷惑がかかる。しかしこの状況を解決できる方法が思いつかない。
「・・・うちの父親が来るって言ってます」
大原が突然言い出した。
「これなら保護者同伴だから問題ないですよね?」
「うーん・・・そうだなぁ・・・まぁ帰るまで保護者がいてくれるなら良いけどなぁ」
「なら、問題解決ですね。課外活動許可の書類を書いてください」
「うーん。しかしなぁ・・・」
「何がダメなんですか?解決したじゃないですか!」
浦野も大きな声で食ってかかった。その時だった。
「福井先生、ちょっと良いですか?」
吹奏楽部の顧問の滝野先生が話に入ってきた。
「引率者が大原くんの親御さんだけで不安なら私も行きますよ」
僕たちは顔を見合わせた。『これなら行ける』確信した。
「私だけでも不安ならえーと・・・岩野先生も生徒指導として同行されてはどうですか?」
おいおい、やめてくれ。
「そ、そうですか?そうですね、課外活動に問題がないように生徒指導として見させてもらおうか!」
僕たちは落胆した。
「僕も葛西の担任としてついて行きますよ」
どこで聞いていたのだろうか村井がさらに入ってきた。もう勘弁してくれ。
「そうですか?それなら心配はないですね。許可しますよ」
福井はそんな先生に押され渋々課外活動許可証を書いた。
「滝野先生、ありがとうございます」
僕たちは滝野先生にお礼を言いに行った。岩野先生を巻き込むと言う余分なことをしてくれたが助けたくれたのだ。実際滝野先生が入ってきてくれなかったら許可は下りなかっただろう。
「良いのよ。私こう見えてライブハウス好きなのよね」
「そうなんですか!?」
「『キャラバンサライ』でするんでしょ?私行ったことあるから」
そうだったんだ。
「葛西、ちょっと良いか?」
村井先生がきた。一応助け舟を出してくれたのでお礼を言っておこう。
「葛西、最近、良い調子だな」
「そうですか?」
「ライブ楽しみにしてるよ」
「はい、ありがとうございます。それだけですか?」
「おう。」
何なんだよ。