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嵐の夜に①(短編小説)
「なんで、私のこと考えてくれないの!」
「ごめん、ごめんね、これからは美緒のこと第一に考えるよ」
「そんなの嘘。いつもそうじゃない」
「嘘じゃないよ、もう泣くのは止めて笑顔を見せてよ、美緒は笑った顔が一番綺麗なんだよ」
「・・・うん、わかった」
「え?それで?」
「何が?」
「それでそいつのこと許しちゃったの?」
「うん、だって考えてくれるって」
「はぁ?」
この子はどうしようもないくらい他者に対して依存的だ。そしていつも最後はボロボロになって私の前で泣く。
「里奈はどう思うの?」
「美緒〜頼むよ、そんな男とこれまでも何度も失敗してきたじゃん」
「『そいつ』とか『そんな』とか止めてよ拓磨くんて名前があるんだから」
「その拓磨くんは何があって美緒を泣かせたの?」
「仕事で飲み会があって、そのあとはウチに来る予定だったんだけど連絡がないまま来なかった」
「ん?そうなの?」
どっちなのかわからない。飲み会で酔ってしまって連絡が出来ずに自分の家に帰ってしまったとか、飲み会で女子と意気投合してそのまま浮気なんてことも考えられる。どっちだ?
「うん、でね連絡があったのは次の日だった」
「うん」
「行くからって」
「うん」
「ウチに来てくつろいでたらラブホのポイントカードが出てきて」
「おいおい」
「私が行ったことのないとこだった」
あ〜〜〜!やっちまったなぁ拓磨よ。お前、やっちまったなぁアウトだなこれは。
これはちゃんと美緒に言わないといけない。
「美緒?それで喧嘩して、『お前のことだけ考えるからさ』って言われて、納得して仲直りしたの?」
「うん、そうだよ」
「バカなの!?美緒は!そんな勝手な人間信じられるってどんだけお人好しなんだよ!そいつ多分、他にも浮気してるよ?いいの?そんなの?」
「うん、わかってる。知ってるし」
「はぁ?」
「知ってる。だから『私のことなんでいつも考えてくれないの?』って」
この子はこう言う子だ。学生時代からそうだった。いつも誰かに利用されて、相手はクスクス笑ってるのにこの子は一生懸命で、そんな姿を見てきた。何度も何度も注意したし介入した。でもダメだった。何故なんだろう?なんでこの子はこんなにも誰かに依存してしまうんだろう?
私は意を決した。
「美緒、もし今もその男のことを全部信頼しているのならごめんけど私の言葉聞こえないかもしれない・・・けど言うよ」
美緒は目が点になってこちらを見ている。届いてくれるといい。
「美緒はいつも誰かから利用されてしまう、そしてそれを美緒は嬉しいと思ってしまう。今回のことだってそう、都合の良い女としてしか見られていない。多分なんでもしてしまうんでしょう?美緒が困ってもそいつが喜んでくれるなら自分を投げ出してしまう。そんなのは駄目だそれでは美緒が美緒で無くなってしまう」
私は言ったこれまで思ってきたことを全部。何故今まで言えなくて今は言えるのだろうか?美緒も私も十分年月を重ねてお互い色々な経験をしてきたからだろうか?それとももうこんな美緒を見たくないからだろうか?それとももうこの子に付き合うのが窮屈になってきたからだろうか?私は美緒に嫌われても良いと思って話した。これは間違いない。
「美緒、私たちが出会う前、高校から以前のことを聞かせてくれない?」
「・・・・」
「話せなかったらいい。大丈夫」
「・・・」
私は待った。美緒が何かを話してくれることを。
「私ね、実は」
美緒の話が始まった。
続く。