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クラマラス 31話 (長編小説)
文化祭の後夜祭。全ての日程が終わり、自分たちの模擬店の片付けを全て終わらせた。運動場での軽音楽部のライブも大盛況に終わり大盛り上がりのまま終演。そして全校生徒が運動場に集まる。
生徒会長の閉会の挨拶があり全クラスでどこが1番売り上げたのかが発表される。これによって上位5クラスに来週月曜日の昼食の時間にお菓子が大量に配布されることになる。
打ち上げ景品と言うことで僕は今までもらったことはない。別段これを目指しているクラスはどこもいないのだがもらえると嬉しいので発表はしっかりと聞く。
「皆さんお疲れ様でした。この2日間。大成功と言っても過言では・・・」
そう生徒会長が演説を始める。僕は遠くに聞こえるようにその演説を聞きながら「話、長くなるのかな?」と自分の列で虚空を見つめていた。すると後ろから肩を叩かれ軽音部の衛藤部長と福井先生が立っていた。
「どうしたんですか?」
「ちょっとな頼みがあってな」
と福井先生がそう言う。
「頼み?」
「これから成績発表の後で、クラマラス1曲歌ってくれないか?」
「は?何を言ってるんですか?」
僕には訳がわからない。
「それがな、昨日と今日のライブでお前らのファンになった生徒達がたくさんいてなその人達が『クラマラス』をもう一度見たいってすごく詰め寄られたのよ」
「いや、でもそんな特別扱いみたいなことしちゃダメでしょ」
「話は全部通してある。お前以外のメンバーも了承してて機材の準備を始めてる」
「え?」
ステージの横を見ると確かに三人が準備をしていた。
「いや、だからって全員が見たいってわけじゃないでしょ?」
「そうだけど、昨日あれだけのことをやってのけたお前のライブを見たくないって奴はいないだろう」
「いやいやいやいや」
いるだろう・・・こいつ何言ってんだ?
「頼む1曲だけでいいんだから」
部長もそんな風に頼む。多分部長にはこれを機に入部してくれる人がいないかそして次の代にバトンを渡したいと思ってのことだろう。打算的だがそれはそれで好感を持てる。そこまで軽音楽部のことを考えている男なのだ。この人は。
「次の機会でいいじゃないですか?」
しかし、僕だってこんなタイミングで演奏したいと思うほど目立ちたがりではない、抵抗はする。
「頼むよ今回の文化祭のエンディングを飾ってくれ」
全体がざわつき始めた。楽器の準備をしているのに気が付いたのだろう、これはもうやるしかない。
「知りませんよ。僕は」
「ありがとう!絶対盛り上がるから」
確証なんてあるもんか!
僕は生徒会の上位発表を聞き流しながらステージまで歩いた。ざわついてるのがわかる。
「で、何演る?」
浦野が聞いてきた。
「そうだね・・・俺は『未完成』がいいと思う」
「文化祭の締めに未完成ですか?」
大原がすかさず言ってきた。
「いや、ぴったりだと思う。僕たちはまだ未完成で、これからも追い求めていくってことですよね?」
新谷が解説してくれた。
「・・・まぁそんなところだね」
「ほんとですか?」
「ごめん本当はただ歌いたかっただけ」
「なんすかそれ」
みんなで笑った。
「でもいいっすよ。やりましょう。俺この曲好きですもん」
大原はそう言ってくれた。
僕だって好きだ。
今の僕たちの気持ちが全て込められていると思う。
運動場でのライブは北野さん店番の時間で聞きに来られなかったなぁ、北野さんに聞いて欲しい。
浦野が口を開く。
「よし、俺らに追い風だし最後に一発かましてやろう!」
うん、よし!行こう!
「第1位は2組です!」大きな拍手に包まれて順位発表が終わった。
生徒会長は静かになるタイミングを待ち話を始めた。
「それではこれでクライマックスです。今回の文化祭で一躍有名になった方々に最後を締めてもらいましょう!もう見えているので隠してもしょうがないですね、昨日の急遽出ることになったステージでトランペットと共にギターで歌い、プレゼンでは合唱風に店を紹介してくれた3年5組の葛西くん率いるバンド『クラマラス』です!どうぞよろしくお願いします!」
大きな拍手で出迎え。
全員が所定の位置立った。
それぞれ楽器の音を確かめ、ステージ横に立って音響の調整をしてくれている部長をみた。指で丸を作りいつでも始めていい合図。
「皆さん、こんにちは『クラマラス』です」
「昨日、今日と皆さんご苦労様でした。今からするんですけど・・・さっきね、部長と顧問が僕の後ろからですね『演奏してくれ』って頼んできたんです。突然ですよ!突然。昨日の『野草研究部』の代役も突然だったんですよ。何なんですかね?一体。僕のことをなんだと思っているのか・・・愚痴ですね、はい、すみません。これから1曲だけ歌わせてください。『未完成』って曲をやります。最後の締めに『未完成』って言われてもなんか嫌だなと思われてしまうのもわかります。しかし。『僕らはまだ未完成でこれからも追い求めて行くってことで最後に『未完成』です』・・・ってベースの新谷に言えって言われまして、何か恥ずかしいでしょ?こんなこと。音楽なんてね聞いてもらう人が何かを思ってくれれば良い訳ですよ。僕からは何も言うことはありません。でも新谷が言えと言うから言ってます。だから皆さんには是非ともね聞いてもらって何かを感じていただければと思います。それでは僕たちの演奏を聞いてください『未完成』」
僕はあの時谷岡さんに言われた事を思い出しながら歌を歌い始めた。
『貴方の指先は届け届けと叫んでいた 人の渦にかき消されてしまっても
そこに残った体温は僕の氷を溶かした
何を考えどこを見ているの わからないことは多いけれで
進んだ先がきっと何か特別になって あなたの叫びがいつか届く時が来る
探して探して探してみたけれど あなたの姿は見当たらない
走って走って走ってみたけど僕の鼓動は早くならない
水面に漂うは可愛くて醜い私 光の点だけがそこに浮かんでいて
逃さないように手を伸ばした
運命なんて歩いてきた結果なのに 虹の下で生まれたはずの私は何もないところに立ち尽くす
探して探して探してみたけど私の体はどこにもない
走って走って走ってみたけど私は私を感じない
僕とあなたの間違いない心はへばりついている
探して探して探してみたけれどお互いを見つける事は
走って走って走ってみたけれど触れ合う事は出来ぬまま
探して探して探してみたら 僕とあなたの心だけは
少しだけ少しだけ 届けることができた』
歌いながら僕は昨日の北野さんの演奏を思い出していた。北野さんは何も心配することはないように堂々と吹いていた。いつもの通りに、あんなに悩んでいたなんてわからないくらい堂々と。
かっこよかった。すごくかっこよかった。
そんな北野さんに届いてくれるといい。
届いてくれるといい。
「葛西くん、かっこよかったよ!」
文化祭終了後北野さんが声をかけてくれた。
「ありがとう」
僕は嬉しくてたまらない。
「まさかクラマラスが文化祭の大トリをすることになるとはねぇ」
「自分でもびっくりですよ」
「さっき歌ったのがこの間悩んでた歌?」
「そう、どうだった?」
「私、色々悩んで挫折して立ち直れなくて、それでもみんながいてくれて、葛西くんもいてくれて、葛西くんと関わるようになって他にもいろんな人がいることを知って、だから私はきっと昨日のあの舞台に立てたと思う。だから私は音大を目指すよ!」
「そうなの?・・・でもそれがいいと思うよ」
僕は驚きそれと同時に心の底から嬉しかった。
「うん、葛西くんの歌に最後の一押しをしてもらった。私も必死にもがいてみようと思う。だから私、今から滝野先生に話してくるね」
「うん、いってらっしゃい。今の北野さんならきっと大丈夫だよ」
「ありがとう!・・・じゃぁまた来週」
「うん、また来週」
僕たちの文化祭はこれで終わった。
こんな状態だったので浦野は告白をできずに終わった。