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懐かしい。(短編小説)(ショートショート)
一つ大きくため息をついた。
心の空気が入れ替わるかと思いきやそんなことはなく、私はもう一度ため息をついた。
「そんなにため息ついて、どうしたの?まぁわかるけど」
「わかるなら聞かないでよ」
「どうどうどう」
「犬じゃないし、怒ってないし」
「はいはい」
「全く」
河原に座り2人ペットボトルのお茶を飲んでいる。
「振られるなんてよくあるさ、次行こ次」
「あのねぇそんな簡単に気持ち切り替えられるわけないじゃん、それに私、振られてもいない」
「そうだったねぇ蓮加が何も行動を起こせない間に相手に彼女ができてしまったのは残念だった」
「いやだからなんでそんなに直球に言うわけ?」
「・・・それが私のいいところだから?」
「・・・はぁ」
美波ははっきりと言葉をかけてくれる。しかも感情を偏らせることなく。この人は感情の起伏はないのだろうか?救われる部分もあれば腹が立つこともある。
「で、不戦敗の蓮加さん、これからどうしますか?」
「は?帰って寝るよ」
「それは非常にもったいない」
「なんで?」
「だって、今日はようやく秋めいてきて涼しさが感じられるようになってきたのですよ」
「ですよ。じゃないよ、だからなんなの?」
「影踏みでしょ」
「・・・いやいやいやいやいやいやいや。やらないよ」
「やってみると面白いかも」
「面白いかもって私たち高校生だよ」
「そう!だからやるんだよ、童心に帰るんだ、失恋にはそれしかない!」
「いや、絶対他にある」
「ない」
「ある!」
「ない!」
「ある!」
「ある!」
「ある!・・・いや、あるんかい!」
「出ましたぁ!関東人なのにお得意の関西弁ツッコミ〜」
まじでこいつ私を馬鹿にしているのか?
「もう帰る」
「いや、やるよ」
「え〜」
そうして強引に影踏みが始まった。
「ルールを確認しよう」
「は?だから鬼が逃げる人間の影を踏んだらその人は動けなくなるんでしょ?」
「そう!と言うことで、蓮加がまず鬼!」
「いや、勝手!」
全速力で逃げる美波、そうだこいつ中学で陸上部だったんだ、足が速い。
あれ?でも何で高校では陸上やってないんだっけ?
「ちょっと待って!速いって!」
「まだまだ蓮加には負けないよ〜」
もう駄目だ。肩で息をしながら私は声も出せない。
「もう、ちょっとしっかりしてよ」
「いや、、、無理、、、、無理だ、、って、」
「じゃあ鬼交代」
「は?いやだから急だろう!」
「スタート」
私はもつれる足を必死に上げて美波から逃げた。絶対に負けないように。
負けてたまるか。逃げ切ってやるんだ。
「はい!捕まえた」
「いや!だから早い!」
スタート地点から10mほどの場所だった。
「次はまた私が鬼かぁ・・・」
「もういいよ終わろう」
「いや、だから急なんだよ!」
「どう気分は?」
「は?疲れたよ」
「でも、振られたことは忘れてたでしょ?」
「・・・まぁそりゃ」
「と言うことです」
「いやいや、騙されないよ」
そう言ってみたけれど確かに今は気分がいい。上がってた息が元に戻ってくる、美波は一才呼吸の乱れはなく、ただ乱れた長い髪を手でかきあげて戻していた。
「美波はそのために?こんな懐かしい遊びをやしかけたの?」
「ん?まぁそれもある」
私は多分美波が何かを喋るだろうと思い。その場に腰を下ろした。見上げる美波はただでさえスラリと細身で身長も高いのに、もっと大きい存在に見えた。
「私、中学の時に足怪我して、陸上部辞めたの」
「え、・・そうだったんだ」
「でも今日走ってみてもう大丈夫そうだと思った」
「は?」
「だからまたやってみる」
「いやいや、また急展開。やってみるって言ったってもう一度怪我しちゃうかもしれないじゃん。そうなったら」
「うん、迷ってた、悩んでたけど。やってみたい。それでまた怪我したらもうそれはそれで受け入れる」
美波をとてつもなく大きく感じる。私はなんて馬鹿なんだろう。何もしないで失恋した、負けたなんてそんなこと言っていい場所にも立っていない。
「ごめん」
無性に美波に謝りたくなった。
「何が?」
当然だ。
「私、何もしてないのに」
言葉にならない。隣の美波はこんなに考えていたのに。
「いいよ、蓮加がそういう人なのは知ってる。
「は?」
私は何故だが笑いが込み上げてきた。美波も笑った。
「次行こ次」
そう心に言い聞かせた。