第二夜 金南俊の虎退治 赤茶色の土を踏みながら、ナムジュンはなだらかな山道を登っていた。 灌木に挟まれた山道の上の青い空を、初秋の乾いた風が渡っている。 ナムジュンは汗ばむ首筋を大きな手のひらで拭きながら、ぶつぶつと一人何かを唱えていた。 「小さな蟹が歩いている……違うな……小さな蟹が這っている……」 ナムジュンは、山の麓で見かけた小さな蟹の姿を詩にしようとしてさっきから頭を悩ませていた。 「あ!」 突然、ナムジュンの足が止まった。ぽかんと口を開いた顔
*この小説は、実在する人物とは一切関係がありません。 第一夜 約束の重陽の晩に月下に集まった七人の妖魔たち。 みな麗しい貴公子のように見えて人ではない。 菊花を愛でながら再会の盃を傾ける中、桜桃のような唇をもつ金碩珍は漢陽の都で耳にした不思議な噂を弟たちに話す。 1 唇に近づけた盃に菊の花びらが落ちたのを見て、ソクジンは「あっ」と小さな声をあげた。 反り返った白い花びらが、水面の月を乱して揺れている。 「ヒョンはなかなか粋なことを