未開の専門分野の勉強方法
大学でレポートを書くときに以前の記事で関連する本を読んでみましょうという話をしました。
しかしながら大学でレポートを書くために本を借りて読むという場合、たいていその専門領域の知識は全くの白紙です。
全くの白紙から業界の最新文献を読もうとすると結構大変です。
今回は白紙の知識の専門領域をゼロから学ぶときにそれが「やや」効率化して「知識の迷子」になりにくい方法について書いていきます。
断片的な知識は一回体系的な知識を学んでから頭に入れる
まず断片的な知識と体系的な知識という話から始めます。
例えばインターネット上のブログとかTouTube、SNSの知識は「断片的な知識」です。
どういうことかと言うと一つ一つの知識にそれなりの価値はあってもその分野全体からすると一部でしかなく、それがわかってもその専門領域の全体像を理解したとは言い難い知識です。
もう少し例を使ってお話しすると、野球を考えてみましょう。
野球をうまくなりたい子供がプロ野球の試合を観に行ったとします。
あこがれの選手がそこでホームランを打ちました。カッコいい!
そこでその子供は「私もホームランを打ってあんな風に活躍したい」と思ったとします。
これが良いとか悪いとかそういうことではなく、この子のその後の修練に関して「断片的にやるか」「体系的にやるか」でその子の今後の野球人生は結構変わってくるという話をします。
まず「断片的に修練する」方法。ホームランを打ちたいんだからバッティングセンターに通います。プロ野球選手の打撃ホームを真似してひたすらバットを振ります。まあそれでもそれなりにうまくなります。
次が「体系的に修練する」方法。バッティングセンターはほどほどに、まず野球のルールを勉強します。それから野球の戦術を教えます。次に効率的な肉体強化方法を教えます。食事も栄養バランスを考えたものを提供し、何の栄養素がどういうパフォーマンスにつながるか教えます。そして守備練習もします。ノックを受けさせるだけでなく、どういう打球がどこに飛んでいくか予測させながら。走塁練習も行います。ただ走らせるだけでなく、どういう打球がどこに飛んだらどの塁まで走れそうか考えさせます。自分が何秒で何メートル走れるか、相手の守備の時の送球スピードでは何塁まで間に合うかという計算もさせます。
当然他にもやることはありますが、バッティングセンターに行って気持ちよくなっているだけの子よりは体系的に修練した子のほうがおそらくうまくなります。
これは野球だけでなくスポーツというのがある程度「体系化した」「全体としてこのスポーツはこんな要素から成り立っている」みたいな知識で成り立っているからです。
木を見て森を見ずではないですけど、全体としてのその分野の成り立ちを知っているというのは「知識のムラ」を解消するのに重要です。
もちろん「断片的な知識」を集めておくことは必要です。でもその基礎になるような「体系的な全体像」を知らないと「この人こんなにうまいのにこんなことも知らないの?」「ある領域は詳しいけど専門家が集まったとき基礎知識が無いから知識の共有ができない…」みたいなことになります。
教えられれば簡単なことなのにそれを知らないから壁にぶつかるみたいなことになりかねません。
そしてたいてい体系的な知識は色々な人が長年の蓄積で「発見」したことの集合なので、素人がやみくもに練習しても発見に一生かかるみたいな知識が体系的な知識にはゴロゴロしています。
だから体系的な知識を一回勉強しておくというのは非常に重要です。勉強するきっかけに「面白い具体例」はあってもいいですが、どこかで体系的に学んでおきましょうということです。
体系的な知識の習得方法その1【~学入門を3冊読む】
その分野について体系的に学ぶ一番手っ取り早い方法は「~学入門」を3冊くらい読むことです。たいていはその分野には教科書が存在します。
「~学入門」というのは初学者がその分野を学び始めるときに「これだけは知っておいてほしい」ことを「余すことなく」網羅的に記述してあります。
そもそも「~学」という学問領域を学ぶときに困らないための入門書なので、「これを知ってないともう一段上の知識が理解できない」みたいな内容を過不足なく扱っています。
ただ気を付けてほしいのは大学以上の入門書になると、「見出し」としては同じだけどどこまで解説されているかという質の面でバラつきが大きいです。
同じ入門書でも出版社と著者が違えば内容のわかりやすさが違います。この項目はわかりやすいけどこれは意味不明みたいな本がゴロゴロしています。
そこで3冊くらい入門書を眺める、そしてその学問分野がどんなことを教えているのかを把握するのが一番最初にすべきことです。なるべく「超入門」から始めたほうが無難です。
体系的な知識の習得方法その2【その分野の初級者向け資格を取得する】
その分野に関する資格というのは一番下のグレードは「その分野に関する全体像を知っているかどうか」という内容のものが多いです。上級資格の勉強をするために知っておくべき全体的な基礎知識というのが一番下のグレードの資格の内容です。
そういう資格の勉強はその分野の全体像を手っ取り早く習得する機会になります。
なのでなんか「~学入門を読んだけどわからない」みたいな状況になったら関連資格の初級の勉強をしてみるといいかもしれません。
そういう初級資格の参考書なんかは「資格を取ってもらえないと売れない」ので初心者でも理解できるように書かれていることも多いです。
それで全体像がわかるならチャレンジしてみてもいいのではないかと思います。
体系的な知識の習得方法その3【文献調査】
以前の記事で書いたのですが、抽象概念は具体の集積がないと理解できないという話をしました。
「~学入門」は抽象概念の集合なので、それだけ読んでも理解できないことが多いです。教科書であって教科書でないみたいな本もあります。
どういうことかというと、関連するキーワードだけ示してその詳細は書かれていないみたいな教科書がたくさんあります。
私がよく経験するのはキーワードを難解な専門知識で「~である」みたいに解説してその前提知識の説明が無いみたいな状況です。たいてい「~学入門」の本はすそ野が広すぎて一冊では本のページ数が足りません。
だからせめてキーワードだけ並べて入り口だけ示すという苦肉の策なのでしょう。
そういう本は「文献調査」でキーワードに関して「Google Scholar」とか「CiNii」で検索して関連する論文を読んでみると道が開ける場合が結構あります。
論文はそのキーワードに関しての最後の砦です。そこが不明(つまり研究室の秘密の独占知識)という場合もありますが、論文を読めばわかる場合も多いので、文献調査で分からなかったキーワードを調べてみるとなんとなく「勘所」がわかる場合があります。
体系的な知識の習得方法その4【その分野のレポート作成】
その分野を勉強していると「日常のコレはその学問的にはどう説明できるのだろうか」と疑問を持つことがあります。
例えば植物生理学について学んでいてソースとシンクというキーワードを勉強したとします。そこで
「ではトマトという作物ではソースとシンクはどこで、光合成で生産された栄養分はどういう分配方法をされているのだろうか」
と疑問を持ったとします。
そこで自分でレポートを書いてみます。
「トマトのソースとシンクはどこなのか不明なので明らかにする必要がある。またその分配方法について知ることは作物の生育上重要である」みたいな課題設定をして自分が納得がいくまで調べます。
その過程を通してそもそもソースで生産される栄養素は何なのか、ソースで生産される栄養素はどのくらいの量なのか、そもそも光合成の仕組みはどうなっているかなどと言ったことを「他人にわかりやすく示すにはどういう情報をどこまで調べないといけないのか。それをどういう構造で相手に伝えないといけないのか」考えることになり、その学びが「~学入門」のキーワードに関する理解を加速させます。もちろん色々な論文や書籍から必要そうな情報を集める必要はあるのですが…。
要するに「具体」を研究することで教科書の「抽象」が理解できるようになるのです。
こういう具体と抽象を行ったり来たりすることでキーワードの理解が進み「~学入門」の内容が次第にわかってきて使えるようになっていきます。
おまけ【YouTubeの動画を大量に観る】
人によってはYouTubeで勉強するの良くないみたいな主張もあるのですが、最近のYouTubeは質がよい動画も結構あるので、そういう動画で「具体の集合」を集めてみるのも役に立つと私は思います。
「断片的な情報」だけやみくもに集めるのが問題なわけで、断片的な情報を集めつつ、教科書で体系的なことを補完しながら動画を観ていけば、動画のわかりやすさは相当なので具体の集積に役立つことが結構あります。
YouTubeで体系的な教科書のテーマを扱っている場合も結構あるので、そういう情報を集めてから教科書とか文献を調べてみると理解が深まる可能性があります。
おまけその2【科学技術なら高校の教科書を理解できると説明できるようになる】
私は理系なので理系の話をしておくと、大学の「~学入門」は高校の生物とか物理の理解が前提になっているので、高校レベルでその事象について説明できるレベルまで勉強すると大学の入門書が理解できるという場合も結構あります。
高校の教科書は購入できるので教科書を販売している書店を検索して注文してみるのもいいかもしれません。私は社会人になってから「物理」「生物」「化学」「地学」の教科書を全巻揃えました。結構役に立っています。
まとめ【未開の専門分野の勉強方法は体系的に行う】
今回は未開の専門分野の勉強方法についてその習得方法を少しだけ効率化する方法について書きました。
結局お金と時間がかかるのですが、知識はお金になるので、ある程度出費することも時には必要と思われます。何かの参考になりましたら幸いに存じます。