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「教科書100%丸暗記は必要ない」調べるための勉強はつまみ食いでいい

高校くらいまでは、教科書のすべてを理解して暗記することが求められます。これは高校のテストが教科書のすべての範囲から出題されて、まんべんなく知識があることを評価するからです。
しかし進路を決めるための企業研究とか大学のレポート作成では、その視点での勉強に固執しないほうがかえってうまくいきます。
私は理系大学院の修士を修了しています。
その中で本物の投稿論文がどうやって作られるのかということに関わる機会がありました。
その経験から、何かを調べるときはつまみ食いくらいの勉強の方がいいんじゃないかという結論に達しています。
今回はそのことについて書いていきます。


架空のテーマを例に考えます

教科書を100%暗記する勉強を「学校の勉強」とします。それに対して企業研究やレポート作成のための勉強を「調べるための勉強」と呼ぶことにします。
学校の勉強は想像しやすいので割愛します。今回取り上げるのは調べるための勉強です。

大学のレポートを例に考えてみます。
大学のレポートでは何かしらのテーマがあります。
「農業の担い手不足とスマート農業について」
だったら、担い手不足の現状とか、最新のスマート農業の動向とかを調べることになりますね。
担い手不足に関しては統計局とか農林水産省の統計データを活用すればいいでしょう。

問題はスマート農業です。
スマート農業というのはITを活用した新しい農業のことですよね。
これを100%理解しようとするとどうなるかというのが問題なのです。
文献調査サイト(Google ScholarとかCiNiiとか)で文献を調べることになるでしょう。
すると「~を活用したスマート農業」といったタイトルの論文がたくさん出てきます。
はたしてそれをすべて100%理解できるのかと聞かれれば、ほとんどの方は無理なんじゃないかと思うのです。

論文が書けるというレベルはどのくらいなのか

論文が書ければその論文の内容は一番よくわかっているはずです。
これが書けるようになるために必要なことを考えていきます。書けるくらい理解していればほぼ100%読めるはずです。

まずそのテーマに関する専門知識が必要です。
スマート農業なら、農業とITの知識が必要なのは容易に想像できます。
農作物の生産に関わるための専門知識が必要なので、少なくても4年生大学の農学部程度の知識が必要でしょう。それで基礎知識レベル。
農業関係の文献を読めるレベルになるには最低でも大学院の修士レベルになる必要があります。

実際に論文を読んで理解できるようになるには、大学院で専門の担当教員から、専門知識について1年くらい徹底的に指導されてようやく概要がわかるくらいだと思います。私はそうでした。しかもある特定の研究分野のわずかな論文が理解できるくらいの到達度です。

ここまで短くて6年です。
これでようやくスマート農業の「農業」の分野の理解が多少できるようになりました。

次はITですが、何年かかることやら

スマート農業でドローン制御ができるくらいになるにはどうすればいいか考えてみます。
まずプログラミングができる必要がありますね。
テキストやデータがちょっと自分で加工できるようになるには、最低でも専門学校で3年くらい徹底的に練習と勉強をして、基本情報技術者か応用情報技術者の国家資格を取るくらいは必要でしょう。

それに加えてドローンは飛行するので、どうプログラミングすればどのくらい動くのか、それをトライアンドエラーで身に着ける必要があります。とりあえず1年修行すると考えます。

スマート農業は農地のビッグデータを扱うので機械学習の知識が必要になります。これはまともにやると大学の情報系の修士くらいのレベルが必要になります。私も勉強してみようと挑戦したことがありますが、一般に手に入る専門書には肝心なことが書かれていないんですよね。専門家にみっちり教えてもらうか、外国の原典みたいな書籍を解読して何年もかけて色々試してうまくいったらいいね、くらいの世界です。
3年で基本情報技術者レベルになってドローンのプログラミングに1年使って、そこからプラス3年くらいですね。

ここでは7年かかります。それでドローンのITに関する文献が理解できるレベル。

レポート一つ書く準備に13年…

スマート農業の論文が読んで理解できるように「農業」と「IT」を専門家レベルまで学ぶのに13年かかることが予想できました。
当然これではいけないわけです。タイパ・コスパが悪すぎます。

普通の人は概要をとらえることに集中すべき

私ならまずスマート農業の文献の「はじめに」をいくつか読んでみます。
「はじめに」の部分には初心者にもわかるような研究の背景が書かれています。
ここをいくつかの文献で読めば、何がテーマになっているのかだいたいわかります。

次にそれを読んでスマート農業の課題がなんとなくわかるでしょうから、その課題に関してさらに文献調査をします。
そしてたぶんこれが知りたいことなんじゃないかという文献に行きつきます。
そうしたらそれを読みます。その時も実験方法などから入らずに、結果や考察から読みます。実験方法はその論文をレポートに使うというときに、その実験の妥当性を考えるタイミングで読んだり考えたりすればいいです。

結果がレポートに使える情報ではなかったら、実験方法を一生懸命調べても無駄になります。しかも実験方法の妥当性というのはその系統の文献を大量に歴史的に追っていって、何が批判されて何が改善されていったのかがわからないとちゃんとした理解には至りません。時間がかかるのです。

それよりは多少間違っているかもしれないけど、何がテーマになっているか概要をとらえて、どういう成果が上がっているのか知ることに集中しましょう。私たちが知りたいのは成果であって、実験の妥当性ではありません。妥当性を議論するのは研究職の仕事です。

専門書を読むときもつまみ食い

専門書も調べたい研究に関係する部分だけ読みます。
田んぼの嫌気環境について調べたいなら、土壌学の嫌気環境の項目だけ読む。索引にあると思います。

この時土壌学の本にある「地層」とか「農薬の悪影響」とかは飛ばします。
もちろん本気で農業を勉強したいならそれも勉強しなければいけません。
しかし限られた時間を有効に使いたいなら必要なところだけ勉強すればいい。

大学レベルの教科書を一通り読むのには長い時間がかかるので、とりあえず必要なところだけ勉強して、また別の機会に必要になったら教科書を開くようなアプローチで十分です。無限に時間があるわけではないのですから。

企業研究は知識の幅が重要です

「良い企業」
というのは色々な企業を比較することで見つけることができます。
比較しなければ優劣がつけられず、良いかどうかわからないからです。
良いというのは「何かより良い」ということですから。
基準をたくさん満たしているという意味で良いという解釈もできますが、これも「基準を満たしていないよりは良い」と言えるため、結局比較しています。

比較するためにはたくさんの企業を調べないといけません。
このときに一つの企業を理解するために13年かかっていたら6社くらい調べるだけで寿命を迎えてしまいます。
だからつまみ食いでいいんです。
会社概要と成果、現在の企業活動の妥当性くらいまで調べれば比較できます。一つを100%にするよりも、60%くらいの理解度で20社くらい情報を握っているほうが有用です。
普通の人はこちらを目指しましょう。

もし100%理解してみたいと思ったら、その分野の大学に行けばいいのです。学生の企業研究とかレポート作成なら知識の幅を意識しましょう。

自分でやる勉強は自由にやっていい

学校のテストを意識するなら教科書100%丸暗記となりますが、自分でやる勉強はテストされません。
それよりも「何を知ったか」のほうが大事です。
教科書を100%暗記できても、自分のためにならないなら、素数を10万桁暗記するのと変わりません。

それはそれですごいことですが(例えば世界中のコンピュータが使えなくなって、素数10万桁がコンピュータを復帰させるためのパスワードになったとかなら超重要情報ですね)多くの人にとって重要なのは自分のためになる結論を得ることです。

だから学校の評価軸とは違う軸で勉強を進めてみましょう。
その新しい軸で教訓になる知識をたくさん身に着けていった方が人生は開けると思います。

つまみ食いの勉強法、試してみてはどうでしょう?

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