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まもりたい11-1

side:Yoshiki


ボクは、今、飛行機に乗っている。
復帰早々で、ヨーロッパ。
体調をやけに気にされながら、飛行機に乗せるんだったらさ、国内でっていう選択肢もあったんじゃないの?
そういう不満を片隅に、トシが自分で抜いてしまった白髪を見ている。
薬の小分け用のポリ袋に入れて持ってきた。
『何ですか?それ』
隣に座っている、女性スタッフが聞いてきた。
『ん・・ボクの心残り。』
『?』
どうせ抜くなら、ボクが抜きたかったという心残りだ・・・
今回の仕事は、全然余裕がないスケジュール。
復帰早々、どういう組み方しているんだと、本当に見てると途方に暮れるけど、その分早く日本に戻れるから、悪いことばっかじゃない。
ヨーロッパ滞在が、3日で、ニューヨーク2日、その後日本・・か。
飛行機時間が長いのは、いつもの事で、着いたら着いたで、車移動が多くなる。
その場にとどまる時間が、やけに少ない・・・分刻みの仕事の山。
このスケージュールが送られてきたのなんて、昨日の夜よ。
ボクがそろそろ仕事できるようにしてと、オンラインでの会議をしたのは・・一昨日・・の朝・・・
仕事が早いねぇ・・うちのスタッフたち・・凄い・・・
あまり荷物は持ってこなかった。
ヨーロッパで合流できるLAスタッフが、ボクの荷物を持ってきている。
これだけの過密スケジュールに、メローちゃん連れて行くなんて幾ら何でも無謀だったから、置いてきた。
トシも今日から移動を再開しているから、ニャンタと移動中だろうな。
heathのご親戚とも会うって話だし。
『休暇は、いかがでしたか?』
「え・・」
気が抜けきっていた。
頭の中が日本語になっていたから、とっさの英語が聞き取れなかった。
『ゆっくりできました?』
『体調壊してたんだからゆっくりできても、ねぇ~・・気分がすぐれてないんだからさ。』
『そうですよね。ふふふ・・」
でも精神的には楽になっているのは、確かだね。
色々話せて、蟠りになっていたものは外せた感じがする。
相変わらず、ワンコ達同様にお預けは食ってるけど。
トシの性格は、本当に揺るがないんだから。
ワンコのおやつ事件・・
あれでトシが、自分も食後のデザートを我慢するから、ワンコ達も食後のおやつ我慢しようってことになっていた。
それが未だに続いている・・・
我慢も限界になったら、ボクの気持ちが分かるかなという目論見は、完全に甘かった。
傍にいると、精神崩壊しそうだという事で仕事を再開した。
これだけ忙しいスケジュールになると、予想外だったけど、余計なこと考えずに済むならそれでいいと判断した。
『BOSS,今年末と、年始は、日本ですが、来年1月半ばも日本にを拠点にしたスケジュールで組むつもりでいますが、いかがでしょうか?』
『え・・・そんな長く休みにするの?』
『仕事はしていただきますけど、できるだけ日本から移動するというスケジュールを組みますが。よろしですか?』
『ちょっと待って・・来年の一月半ば・・・の話‥今しないといけない?』
今はまだ、11月半ば前で。
二か月の先の話。なんでそれを今しているの?
『トシさんの事務所から打合せが入って、どうしますかてことでした。あちらは、こちらに合わせるとの頃ですから、お相談させていただいていますが。』
『何があるの?一体?』
バサッ・・・
誰かが何かを落とした音がした。
見上げるとマネージャのスケジュールノートはしっかりと持っているから、この人じゃない。
『・・・・・』
言葉を失ったかのように、開いているマネージャの口。
『・・止まってるよ・・大丈夫?』
『・・・・あなたの方が・・大丈夫ですか・・・?』
なぜ聞き返されてるのか全く分からずにいると、斜め前の席に座っている通訳が、落とした雑誌を拾いながら、ついでにボクを見てきて言った。
『BOSS・・heathさんの誕生日ですよ。それに・・あ・・トシさんの事務所からのその申し出は、何方からの要望ですか?』
『社長直々です。』
『やりますね。でも・・まさか本人たちは・・知らないんじゃ・・?』
『そんなはずないですよね?BOSS』
マネージャと、通訳とのやり取りを聞いていて、全くなんの話なのか分からなかったけど、マネージャの表情が、嘘のように愕老いている顔をしているのが分かって、知らないなんて言えそうにないような気がした。
『何の話なの?』
知らないとは言ってないんだからいいよね。
『本当に分かってないんですか?』
分かったらわかってるっていうよ。
この世の終わりみたいな表情が、次々とボクを見てくる・・・
『いったいなんだよ?』
『heathさんの誕生日を結婚記念日にするから、一度離婚して翌年に婚姻届け書き直すって、おっしゃったの、覚えてますか?去年。』
あ~・・・思い出した。
あったわそんなの。でも、離婚しなくても、婚姻届け日を変えることが出来る方法があって、書き換えだけしたんだった。
その時も事務所は大慌てになったけど、処理は素早く済ませたんだった。
『あれだけのことしでかしておいて、よくも・・・忘れてくださいましたね・・BOSS』
怒るのは分かるけど、いちいちそんなの覚えてないって。
『忘れないために、書き換えたのに、やっぱり忘れるって‥』
都内のスタッフまでもがため息をつき出した。
はっきり聞こえるんだけど。
『トシだって忘れてるんでしょどうせ。』
『トシさんは、覚えてます。heathさんの誕生日も兼ねているから、ヨシキさんが仕事なら、ご親戚さんとお会いになるとの事だそうです。社長さんがそのことで、連絡を入れてくださいました。つまりトシさんはどちらにせよ、仕事は休みを入れると決めているそうです。』
・・・・わすれてなかったんだ・・・
で・・・色々考えていたのか・・・・
『その為にそれまでは、お忙しいご様子ですが。』
マネージャが呆れても無理ないな、これは。
『色々抱えていて、大変なのはわかります。それでもこういうことを大切にした方がいいのではないでしょうか?せっかく日付を変えて覚えられるようにしたんですから。』
マネージャが事殊更心配そうな表情でボクを見ている。
『BOSS。』
都内のマネージャも、何かいいたげに声をかけてきた。
『トシさんは、確かにあなたを縛るようなことはしないですよ。ですけど、それが原因でBOSSが心理的ストレスを抱えたんでしたら、見直すところを考えないと。あなたを自由にしたいというトシさんの愛情ですけど、それが物足りないっていうなら、BOSSが放っておかなきゃいいんです。』
『そいう言ってもトシは仕事を詰め込んでるんでしょ?』
『何のために都内のスタッフ同行させてると思っているんですか?』
『知らないよ。』
『経費の無駄使いしないためにも把握はしようとしてください!』
『メンバー入れ替えしてから、なんか強気な人が多くなってない?!』
『トシさんの事務所に学びました。BOSSに遠慮していたんでは、BOSSを守れないんです。』
!!!
凄い勢い!!
『都内のスタッフは、日本での仕事もすぐにできるように動いてくれるので、必要になれば予定は急遽変更できます。』
『何のために?』
『スケジュールの入れ替わりの為です。あなただけじゃないんですよ?あなたのような人達は、他にもいますから。安定しないんです。特に外国のスケジュールは。なので、枠が丸ごと開くこともあるので、どんな手段でも仕事を入れられるように用意はできてますので、向こう一か月は、仕事に集中してください。』
『12月半ばから日本の仕事が山盛りではいります。そこの調整も同時変更でしていきまして、逐一報告させていただきますね。あと、弁護士さんとのやり取りの件についても、こちらから報告しますので、ちゃんと聞いて、必要なことは直接お話してください。』
弁護士の件で必要になれば帰国することになるってこともあるか。
それで・・・それをカモフラージュするために国内の仕事をの段取りをその場で付けるっていうのかよ・・・・
ボクも忙しいけど・・当然スタッフたちだって忙しいわけだ。
『で、日本での仕事が入れば、トシにも会えるの?』
何気なく聞いたことで別にな他意はないんだけど、なぜか冷たい表情がむけられた。
『話聞いてましたか?1月半ばの休みを取らせるために、今できる対策を練ろうとこっちがしているんですよ?!呑気にトシさんに会えるなんて考えないで、仕事してください。』
『日本での仕事が入りいましたら、その時は確実にホテル暮らしです。』
『・・なんで?』
『・・・この・・亭主関白が・・・良いですか?トシさんだってスケジュール一杯一杯なんです。そこへあなたのことまで任せたら、トシさんの事務所とまた喧嘩になるだけです。既にあっちは、ワンコ二匹いるんですから。』
『ワンコ二匹と俺を一緒にしないで。』
『一緒にしてません。それよりたちが悪いんでしょ?あなた。』
君たち・・ボクの事なんだと思ってるわけよ・・・・
ボクのマネージャはLAも都内のも、男なんだけど、どういうわけかトシのマネージャに似始めてきた・・・
忙しいことには慣れているし、苦でもないんだけど、スケジュールの調整がその場その場で行わられるって状況はなかなかないから、どこまで振り回されるのか・・・
ポリ袋に入っている、一本だけ見つけたトシの白髪を見つめて、無事に仕事が終わらせることを考えた。

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