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旧マーゲート道場閉鎖と3つ目の新道場オープン


     2つ目の道場は、マーゲートにある公民館の体育館を借りていたが、借りた当初はまだその周辺の雰囲気がわからず、公民館の体育館でもあり、人が集まりそうだと確信していた。一緒に契約に来てくれたジョージもそう思っていた。ところが、いくらデモンストレーションやプロモーションに時間をかけても道場生の数はなかなか伸びないでいた。主なメンバーはアーロンと息子のジェイク、それに奥さんのジェニー、それと、高校を中退したというという背の高い細身の青年であるライアンとその兄のルークくらいだった。なかなか収益が上がらないのでよくよく考えてみると、地域的な要因が大きく影響しているということが分かってきた。例えば、いつも8歳くらいの男の子が稽古を外からじっと見ていて、ある時、
        「半額で稽古させてくれる?」と言ってきた。僕はやらせてあげてもいいかとも思ったが、他の生徒の手前もあるので優しく断ると、そそくさと去っていった。今思うと可哀そうなことをしたと思っている。またある時、体育館の入り口の所から見学していた青年がいたので声を掛けると、うつろな目をしていて、呂律が回っておらず、何を言っているのかわからなかった。後に、ケアテーカー(鍵を管理する人)の話を聞くと、どうやらドラッグをやっている青年とのことだった。そういえば、その地域では頻繁にパトカーがサイレンを鳴らして走っていたなぁ、と思った。

        そういうところから総合的に判断し、僕はこの道場を閉鎖することを決心した。すると、ちょうど同じ時期に、ジェニーから朗報を聞くことができた。それは、ジェイクが通っている小学校の体育館が借りられそうだということだった。借りる金額もジェニーの計らいで少し安くしてくれるとのことだった。さらに校長先生からの許可も取ってくれるとのことだった。

          数日後、ジェニーから僕の携帯電話に連絡が入り、
「ハロー、ナオト! 小学校体育館の放課後利用のことだけど、正式に火曜日と木曜日の週2回借りられることになりましたよ!校長からの許可も得ました!」と言われた。

        僕はとても嬉しかった。僕とジョージとの関係は予想に反して親友としての強い絆がなくなり、単なるビジネスパートナーという関係に成り下がっていた。そんな中、僕は異国での人の親切さが改めて身に染みた。この道場は僕の道場生からの紹介なので、契約の方も僕の方ででき、ジョージにはその旨を電話で知らせるだけだった。ジョージは電話口で喜んでくれていたが、前のような親友同士の会話という雰囲気ではなく、ビジネスライクな感じがした。ジョージからの管理料も当然発生しなかった。 

       いずれにしても、二番目に開設した初代マーゲート道場に代わる、二代目のマーゲート道場になりそうだった。マーゲートにはあるが、小学校の名前はウインドミルだったので、ウインドミル道場と呼ぶことにした。前述したように、この道場はジョージに頼んで探してもらったわけでもなく、僕自身の伝手で開設が決まったということもあり、僕は嬉しくてたまらなかった。オープニング稽古にも期待以上の生徒が多数集まり、経営的な期待も十二分にあった。何にも増して、道場が小学校の体育館だということだった。

      何度か稽古を行うにつれ、道場生も回を追う毎に増えていき、20人になるのに1カ月もかからなかった。そんな生徒達の中には10歳と11歳くらいの金髪の美しい姉妹がいて、僕とスパーリングをした際に、2人ともびっくりするくらいの強い下段回し蹴りを僕に蹴り込んできたので、

  「おー、凄いキックだね!痛いよ!」と僕はちょっとおどけた感じで言うと、姉妹はそれぞれ近くにいた父親と楽しそうに微笑み合っていた。彼女らはとても熱心で毎回出席し、稽古を盛り上げてくれた。僕はそんな光景を見て、彼女らがまるでこの道場に幸運を運んでくれる天使たちのように見えて仕方なかった。それに加え、生徒達の付き添いで来ていた母親たちからも、
   「私も興味が湧いてきてやりたいんですがいいですか?空手着も注文したいのですが」という申し出が殺到するようになっていった。僕はイギリスに来て初めて、長い間思い描いていた夢を実現できた気分になっていた。

(~続く)

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