誰かが体験した奇談。其九『墓場その2』
『A町Nにある墓場その2』
その墓地は広域農道の近くにあり、正面の道はA中学校の正門の横につながっている。墓地を通る道はどこかにちゃんとつながり、昔は町はずれにあったものが今は町の中に組み込まれている。
しかし、昔は中学校は違った場所にあり、墓地は町はずれに位置していた。
農道から曲がれば墓地に出るが、道は墓場の周りにあるだけで、道はコの字型となっていた。つまり、農道から入ると左手に墓地を見ながら進むと道が途切れ、左に曲がらなくてはならない。でも、そこはちょっとした近道でもあったのだ。
もともとこれから造成していく予定だったので、道はちょっと高くなっていた。ガードレールもなく、夜には街灯の一つもない真っ暗な道で、周りは田んぼばかりでカエルの大合唱が聞こえていたりした。
私はその頃中古の車に乗っていた。その車で、仲間とF市にあるゲームセンターやカラオケなどに良く出かけていた。
ファミリーカーと呼ばれているタイプであまり速い車ではないが、仲間を乗せて走るにはちょうどいい車だった。
ある月のない夜の事だった。
F市の店を出たのは午前1時を回っていたと思う。国道を使って帰るコースもあったが、広域農道を走ることにした。
道もすいているし、何より信号が少ない。
音楽を聴きながら、仲間と馬鹿な話をしながらアクセルを踏む。しばらくは楽しいが、やがて眠くなってくると自然と口数も少なくなっていく。
そんな時に墓地に差し掛かった。
左の白く見える墓石がヘッドライトに照らされていく。目の前には車2台分ほどの広さの白い道。
ハイビームにすると、道がと切れているところが見えた。ガードレールも何もない、ただ田んぼがその先にある。そこを左に曲がるだけだ。
曲がり角が近づていた時だった。
突然、あたりが真っ暗になる。
車の電源が落ちた。と瞬間的に思う。
軽いパニック。ハンドルが重くなる。ブレーキが利かない。
電源がないと車は突然言うことを聞かなくなる。
鉄の塊が進むだけだ。
「おいっ」
後部席の仲間が、叫ぶ。
「どうしたの」
私はどうしていいかわからず、ひたすらに利かないブレーキを踏み続けた。
落ちるっ。
私は車ごと田んぼに落ちることを覚悟した。
その時、車の電源が突然復活する。
私はブレーキを踏み車を止めた。
心臓が、ドキドキしていた。
「お、おいーっ」後部差関からほっとした声が聞こえた。
「またぁ、驚かそうとしてたんでしょ」
趣味悪いーなんて笑い声がしたけれど、誰もがわざとしたことではないと分かっていたようだった。
「わかる?}
わたしの笑い声は凍っていた。
「いこうよ」
誰ともなく言った言葉をきっかけに私は車のアクセルを踏む。車は問題なく進みだした。
次の日私は車を車屋に持ち込んだが、バッテリーをはじめ電気系統は正常だった。
車はそれから手放すまで、問題は一切起きなかった。電源が落ちた事もない。