誰かが体験した奇談。其一
ある女性が語る。『鏡』
それはずっと昔の話です。お断りしておきますが、それほど怖い話ではありませんよ。
でも、あなたは奇妙なことというのは日常で気が付かないほどだとおっしゃるのですから、そういうものかも知れませんね。
私が中学生の頃で話ですから、もう何十年も前の話です。今はすっかりおばぁちゃんですけどね。
私が通っていたのはS市にあるC中です。今でこそ落ち着いた街ですが、昔はS市の中でも振興住宅の多い新しい街でした。
物の怪が住むような伝説の森などもありましたが、新しい街の力に押されて忘れ去られていくような存在でした。実際、盗賊が住んでいたというような森もなくなっていました。人口も増えていく若い街だったんです。
C中も新しい学校でした。他の学校は江戸時代からの歴史がありますが、C中にはありません。若い学生が新しい学校を作っていて、元気な学校というイメージでした。私は、そこでバスケットボールの部員でした。
やる気はあるものの、下手な横好きみたいなもので上達しはしませんでした。でも、部活には頑張って出ていたんです。やがて、同じように下手だけど頑張っている5人ほどのグループが出来て、下校時には一緒に帰っていました。
体育館には、ダンスのためなのか大きな鏡が設置されていました。私たちは部活を終えて着替えるとその前でよく服装チェックをして帰りました。
あれは、夏休みの間の部活でした。
夕暮れに部活が終わったころです。先輩たちはまだ着替えており、私たち仲良しグルーブは先に鏡の前で服装チエックしていました。
鏡に映っているのは6人。みんな知った顔です。笑いながら髪の毛やスカーフを直してました。
私はふと横を向いたんです。すると、4人がそれぞれに服を直している。
違和感を感じて鏡を見ると6人います。
でも、知らない顔は誰もいないんです。みんな知っている人たち。
しかし、横を向くと4人しかいません。皆おしゃべりをして笑っています。誰が増えているのかなぜかわかりませんでした。
私は、ちょっと恐ろしくなって先に玄関に向かいました。
私たちは何事もなかったようにおしゃべりをして帰りました。
それぞれに家が近くなって別れていくのですが、最後に親友のT子と二人になったときぽつりと言ったのです。
「気が付いた?」
私は無言でうなずきました。
「やっぱり!」そう言いながら無言でT子は歩いていました。
「この前も、あったんだよ」
別れるときに彼女はそう言いました。
夏の終わりごろには、誰というわけでもなくその鏡の前での服装チェックはなくなりました。
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