【おとなりさんちの話】たしろの居場所ふらっと@鳥栖市
自分が住む地域で、自分を気にしてくれる人はどのくらいいるだろうか。詳しい家族関係のことや暮らしている中での事情のことを知っている訳ではなくて、「顔を知っている」くらいの人であって、なんとなく安心できるような存在のことだ。どんなことがあってもこどもたちが安心できるようにと想いながら、「おとなりさん」として活動している人たちがいる。
メンバーの西村さんと松信さんはお互いご近所さん同士。こどもたちが暮らす生活圏で、自由に遊べる場所や地域に人と接する機会が少なくなってきていることから、もっと過ごしやすい環境づくりができないだろうか、と思ったことが発端だった。本当であれば、※映画『ゆめパの時間』に出てくるようなプレーパークを作りたかったけれど、先ずは自分たちにできること、と鳥栖市の中で公民館のような位置付けの施設になっている、まちづくり推進センターの部屋を開放することを始めたのだった。
場所は、小学校から目と鼻の先。平日の夕方、開放日にこどもたちは自転車を乗りながら次々にやってくる。兄弟で一緒にきたり、友だちを連れてきたりと周辺はこどもたちの声で徐々に賑やかになってゆく。
フリーなスペースには、ボードゲームや工作に使えるものが置かれていて自由にこどもたちが遊べるようになっている。特に何かをしなければならない訳でもないし、何をしてもいい。こどもたちの様子を見ていると、1人で絵を描いている人もいれば、宿題をやっていたり、友だちとゲームをして盛り上がっていたりと様々だ。
1人で楽しめる人もいるし、落ち着く人もいる。逆に大人数で盛り上がりたい気分の人もいる。その日の状況によって、どう過ごしたいかは人それぞれだから自分で選んでいいのだ。時にはやることがなくなってしまって「どうしようかな〜」と思っていると、おとなりさんがやってきて少し世間話しをする様子もあった。「今日はお友だちと来てたね!」とか「クラブ最近どうなん?」など、こどもたちの近況を細かによく見ているおとなりさんたち。この日は、なんと昔遊びのこま回しを教える方もいた。
まちづくり推進センター内にある地区の社会福祉協議会の小森さんは、ここが居場所として開放されるようになってから、たまにやってきて竹や木を使った遊びを自分から教えているのだそう。この活動をきっかけに、地域の人が自分にできることをこどもにしたい、と志を持って参画してくれたことがメンバーの皆さんにとっても心強かったという。「こちらから、お願いした訳ではなかったのですが、積極的にこどもたちと関わってくれることが、とても嬉しいです。」と西村さんや松信さんは話す。
おとなりさんとして、こどもの側にいる人たちは皆さんの実践をきっかけに、こうやって広がっていて、地域のお母さんたちも協力をしてくれることが増えているという。この日も調理室でおにぎりがつくれるように準備していたのは、そんなおとなりさんだった。
皆さん、仕事があったり忙しい日々を過ごしているけれど、隙間時間を見つけて「この時間なら行ける!」とやって来て、こどもたちを見守っているのだという。「こどもが少し大きくなってきたからね。学校の行事で声をかけてもらって。こういう機会があると、お母さん同士が会うきっかけにもなるので、私も嬉しいんです。」と優しそうに話す。コロナ禍によって、学校に行く機会が減ってしまい、親同士の繋がりも以前に比べると希薄になってきたことを実感しているのだそう。「なにげない雑談をしに行くのが楽しみだったりするのよね。」とくすっと笑いながら話す姿が印象的だ。
そんな「おとなりさん」たちは、こどもたちの居場所づくりをする上で大事にしている視点があるという。それは、こどもと一緒に、こどもに相談して、こどもに耳を傾けながら場づくりをしているということだ。「勝手に大人がルールを決めるのではなく、こどもたちの声を聞いて、話し合いながら一緒に場づくりをしていきたい。」とメンバーの西村さんは話す。例えば、こどもの人数が多い時には、おやつの配分を敢えてこどもに相談したり任せてみたり。また、居場所でやりたいことを、こども本人に聞いて実践してみたり。「大人がしたい、させたいにならないように、気を配っていきたいと思っています。」と加えて伝える。
そんな大人の皆さんの在り方の背景には、こどもと対等でありたい、おとなりさんでありたい、という優しい想いがある。メンバーの松信さんは、ひょんなことから、小学校の登下校に旗を持って見守りを始めたそうだ。「みんな朝だから元気がないこともあるんです。でも、無理して挨拶をしなくてもいい。こちらが ”挨拶しなさい” というのは、『こどもは元気よく挨拶するべき』というイメージの押し付けかもしれません。大人だって元気がない日もあります。よく見ると口は動いていて、それぞれきちんとリアクションをしてくれているんですよ。」とこどもの立場になって関わるようにしているそうだ。最近では、「おばちゃん」と呼んでくれるこどもも増えてきて「おとなりさん」になれていることを実感していると嬉しそうに話す。
おとなりさんたちの様子を見ていると、この地域の皆さんと、まるで輪をつくるように手を取り合って、こどもたちを見守っていこうと緩やかにつながっているように感じる。「この先の将来も私たちは、この地域で過ごしていくわけでしょ。だから、ここで暮らしていて良かったなと、そう思えるように手を取り合っているような気がします。」
こどものためというより、こどもと”共に”自分たちの過ごしたい地域の風景を描いているような皆さんの在り方は、きっと周りのこどももおとなも元気にしていく力があるのでしょう。「自分のペースで過ごしてね。やりたいことをやろう。でも、やらなくてもいいよ。」と、こどもたちへメッセージを送る皆さん。こんな大人になれたらいいな、そう思うのは私だけではないはずです。
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たしろの居場所ふらっと
おとなりさん:地域の皆さん
おとなりさんち:鳥栖市田代まちづくり推進センター(鳥栖市田代大官町1958番地)
隔週金曜日15 時から 18 時
詳しくはこちら(instagram)▷https://www.instagram.com/tashiro.flat/
instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/
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こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を皆んなで緩やかにつくっていきませんか。
編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)