【おとなりさんちの話】よりみちステーションぼちぼちや@武雄市
約1年前、新しく「こども家庭庁」が設置され、同時に「こども基本法」という、こどもの施策を社会全体で進めていくための法律もできた。その背景には「しんどい思いをしている子がいるのではないか」という課題のもと「どの子にも幸せになってほしい」という願いが込められている。
そんな風にして、社会が「こども」へ目を向けている昨今だが、それよりも10年以上も前から、その課題と願いを持って地域のこどもたちを見守り、こどもたちにとっての居場所となろうと、活動を続けている「おとなりさん」がいる。
よりみちステーション代表の小林由枝(こばやし よしえ、以下、よしえさん)さんは、当時からこどもたちに「さんま」が無いと感じていると話す。それは「時間」「空間」「仲間」の3つだ。競争社会が加速したことによって、こどもたちは塾や習い事にいくことが増え、忙しい放課後を過ごすことになっていった。また、遊びたくても、空き地や公園が徐々に地域から無くなったり、禁止事項が増えたりして自由に遊ぶ空間も減ってしまった。そういった結果、一緒に遊ぶ仲間さえもいなくなってしまう、というわけだ。本来であれば、こどもたちが空想をしてみたり、休んだりすることはとても大事な時間のはずなのに。大人によって、暇や無駄、隙間が良くないこととされる状況に課題を感じ、こどもたちが自分らしく過ごすことのできるようにと、公民館を開いて駄菓子屋のような居場所をはじめたのがきっかけだった。いったい、どんな「間」なのだろう。今回は、そんな間を大事にしている「おとなりさん」を紹介する。
いつもなら放課後の時間に空けているのだが、この日は春休み。長期休みには午前中から開けている。あいにくの大雨にもかかわらず、こどもたちは集まっていた。本当は外で鬼ごっこをしたいこどもたち。もちろん好きなことをしている子もいるけれど「暇だな〜」と何をしようか悩んでいる子も。思わず「暇!!」と漏らす様子に「暇だね〜」と返す、おとなりさんたち。
「ついつい大人は暇そうにしているこどもに、何かをしたら?とか、これをしてみる?と提案しがちになるけれど、暇も大事な時間。それを奪ってはいけないと思うの。」とよしえさんは話す。
それでも、やっぱり色々なこどもがいて難しさもあるというよしえさん。「時にはね、行動がコロコロ変わったり、暴力的な言葉を言う時もあるし。そんな一面にもきっと事情があるのだろうから、こどもを丸ごと受け止めたいな、と思うんだけどね。」と日々こどもたちのおとなりさんとして葛藤をしながら側に居る事がうかがえる。
さて、お昼になると(長期休みの時には毎日らしい)寄付やらで集まったものを活用しながら昼食を用意する。ちょうど、12時頃「ごはんできたよ〜」とまるで、お母さんのように声をかけた。
みんなが机を囲んでそれぞれ会話をしながら、ご飯を食べる様子は家族団欒の景色に似ていた。でも、実はそこまでお互いをよく知っているわけではないらしい。関係性にも隙間があるようだ。そこで、元気な女の子が「今日はみんなと話そっと!」「みんな、何月生まれなのよ?」「ねえ何年生?」と賑やかな会話を広げる。
そんな様子を眺めながら、大人も横でニコニコしながら居ると、少し大きな高校生がやってきた。当然、よしえさんは知っているようで「お〜⚪︎くん!」と声をかける。今日は学校もバイトもないので、顔を出してくれたらしい。彼は小学生の頃からここにやってきて、遊んでいたようだった。「最近はどう?」と話を聞く、おとなりさんたち。そんな身の上話を聞いては「そうなんだ」とか「すごいよね」とか、相槌を打っていく。
しばらくすると、⚪︎くんと小学校が同じだったという△くん(写真下、奥)も遊びに来た。「高校生になり、ボランティア部に入って。ここに来ることが息抜きになるというか、自分の素が出せる感じがしているから、そういう名目で来ちゃいました。」と嬉しそうに話す。彼も、小学生の頃からここにやってきていたから、ここはお馴染みの場所だという。こどもたちに混じって、全力で遊んでいた。
よしえさんは、高校生たちが今でも来てくれる理由を思い出しながらこのように話す。「彼らが小中学校の頃、窮屈な学校生活や放課後を過ごしていたみたいで。そんな時、少しでも時間を見つけてやってきて、エネルギーチャージをしていたみたいなの。ここがあったから今の自分がある、って言ってくれたことがあって。とても嬉しかったけれど、余裕がないこどもの現状も益々実感したかな。」
遊び方も、昔の方がもっとエネルギッシュで力に溢れていたそう。
時代は刻々と変わってきている。それでも、自分たちにできることは、地域のおばちゃんとして、居ることだから。そんな風に話しながらよしえさんは ”何をしてもいいし、何もしなくてもいいよ。" とこどもたちの側に居続けている。周りの「おとなりさん」も、その姿を見て「私にも何かできるかなと思えたんですよね。」と話す。この日も「宿題教えて〜」とこどもたちに声を掛けられていて、優しい眼差しで、こどもたちに勉強を教える様子があった。そんな風に周りの「おとなりさん」にまで、その在り方が広がっているようだった。中には、遊びに来ていたこどものお父さんも手伝いに来ていて「こういう場所、いいですよね。」とにっこり微笑んでいた。
地域に敢えて隙間を作っていって、外の世界から見守ろうとする「おとなりさん」たち。そこでは、物理的な空間としてだけではなく、人との間にも緩やかに心地よいものとして、存在していることを感じる。
そんな間を作っているよしえさんは、目の前のこどもたちにとって、居場所となる人で居続けるために、大人の側も幸せでいることが大事だと言う。そう話しながら、川崎市で子どもの権利条例ができた時に、こどもたちが大人に伝えたメッセージを紹介してくれた。
目の前の大人である、おとなりさんたちが、ごきげんでいることで、こどももごきげんになるのだ。地域に隙間を作れるように、そう信じながら、まずは私たちが幸せでいたい。
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よりみちステーションぼちぼちや
おとなりさん:代表のよしえさん、地域のみなさん
おとなりさんち:武雄市武雄町永島15688(永島自治公民館)
毎週水曜日 14:00~18:00、長期休暇 10:00~18:00
無料
他にも、「よりみちステーションくむくむ」という古民家を利用した居場所も開放しています。>武雄市武雄町武雄5603-8
月・火・木・金 13:00-18:00
無料
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Instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/
編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)
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