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【おとなりさんちの話】せふりこども食堂@神埼市

人が癒されたり、ほっと安心できたりする瞬間はどんな時だろうか。好きなことを話した時、見慣れた光景を目にした時、自分のことを肯定してくれる相手といる時、ひょっとすると一人でいる時も場合によっては安心できたりするものなのかもしれない。それだけ、人が安心できるきっかけは多様なのだろう。

佐賀県神埼市の市内からずっと車で登っていったところに高取山公園という場所がある。全長200メートルの滑り台や広場があって、ドッグランもできる人気のある公園だ。福岡からもアクセスできることもあり、県外の来訪者もいるようだ。その公園に併設される「レストランそよ風」では、運営する山本まり子さん(以下、まり子さん)が、その場所を活用して犬と触れあることができる居場所づくりを月に1回行っている。

神埼市高取山公園

そもそも、なぜ犬なのかと疑問に思った方もいるかもしれない。どうやら犬にはセラピーに用いられるほど、人を癒す効果があるという。セラピーでは高齢者施設や養護施設・学校で犬とふれあうことにより、高齢者やこどもに安心を提供している。そんなセラピー犬を招くことによって、こどもたちが安心できるのではないか、そう思いながら居場所づくりをしているのだそう。

犬を喜んで迎えるまり子さん

まり子さんは元々、自宅を地域に開放して一緒に夜ご飯を食べられる場づくりを行なっていた。当時一緒に住んでいた、ご自身のお孫さんが犬を飼っていて、その犬と触れ合う目的で集まってくる地域のこどもたちがいたようだ。そんな光景をきっかけに、こどもが犬と触れ合えるような場づくりができないかという構想を持ち、公園併設のレストラン運営に手を挙げたのだった。「ここでは、犬はもちろん、どんな人でも来ていいんですよ。障がいがあってもなくても、こどもでも高齢者でも。」誰もが訪れることのできる場を目指していると、まり子さんは優しい口調で教えてくれる。

犬と楽しそうに触れ合うこどもたち
レストラン横で犬を触れるようになっている

この日もドッグセラピーの犬が集まってきており、こどもたちが恐る恐る近づいていた。あまりに大型の犬で「こんなに大きいの!」と驚く様子だったが、慣れていくと背中をさすったり、顔を近づけて見つめてみたり興味津々だった。最初は保護者と一緒にいるこどもたちも、気がつけば一人でも大丈夫な様子で、長時間にわたってそこに居る子も。その横にあるレストランでは手頃な価格でご飯を食べてのんびりできるようになっている。まりこさんは、こどもたちに「お腹空いたら食べてね」と室内で料理を並べて待っているのだ。

地元のこどもたちもいるし、県外でたまたま訪れたこどももいる。「いいんですか?」と様子を見ながら初めて来た人にも、まり子さんは、次回に開催する予定のイベント案内を丁寧にしていた。そんな優しいまり子さんのことを慕って、近くの放課後等デイサービスに通うこどもたちや、学校終わりのこどもたちも集まっていた。「今日も来てくれたね〜」と温かくまり子さんは迎える。

笑顔で迎えたり、見送ったりするまり子さん

こどもたちに「いつも来ているの?」と聞くと、「ここでお昼を食べて公園で遊んで帰るんだ!」と教えてくれた。「まり子さんは、いつでも優しいの。気を遣ってくれるし。ご飯も美味しい!」と、こどもの声からは「こどもたちのおとなりさん」としてまり子さんが側にいることが窺える。こどもたちの様子をよく見ていて「今日は学校があったんだよね」と事情を知っていたり「あっという間に大きくなってきたね」とこどもたちの成長を見守っていた。

これまで、こどもが犬と触れあう機会を通して、こどもたちの成長を感じている瞬間もあったんだとか。「怖くて犬に触れない、と尻込みしていた兄弟がいたの。だから、やってみなくちゃ分からないよ、と背中を押してみたのね。すると、あっという間に慣れていって。それをみた他の兄弟たちも、自分だけ触れないことが悔しくて勇気を出して手を伸ばしてくれたのよね。その日に、苦手意識を克服できたみたい。」と嬉しそうにこどもたちの様子を話す。今では当時の苦手意識はどこかへ行ったかのように、自ら積極的に触れ合っていて、まり子さんの前で自慢げに振る舞っているのだという。できないことが、できるようになる、やってみたら、新しい感覚に出逢える、そんな力を些細なやりとりから得ていったのだろう。

犬を触る時、その反応から、その子の個性を感じているというまり子さん。「みんなの優しさが伝わってきて、嬉しい」と話す。実は、この取り組みを見た、佐賀県内の他の地域の方も参考にして同じように犬とこどもたちが触れ合う場づくりを始めたのだとか。こどもたちが安心できるきっかけづくりはどうしたらできるのか、こうやって、みんなで考えていきながら見守っていけると良い。

まり子さんの「誰にでも良いところがあり、自分らしくいて欲しい」という願いが常にそこにあって、これからも居場所づくりの実践は続いていくのだろう。

「自分のペースで頑張ろう。自分の個性を活かしていってね。」
こどもたちに声かけるメッセージも、まり子さんらしさを感じるのだった。

まり子さん、「こどもたちのおとなりさん」となっている協力する皆さん

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せふりこども食堂
おとなりさん:まりこさん、協力するボランティアの皆さん
おとなりさんち:高取山公園わんぱく館内レストラン「そよ風」(神埼市脊振町広滝1472 )
毎月第2土曜日 11:00~14:00
大人500円、子ども300円
080-3913-3969

instagramでは写真を、noteでは文字を中心とした読みもので「こどもたちのおとなりさん」を発信していきます。
▶︎アカウントはこちら https://www.instagram.com/kodomo.otonarisan/
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こどもをまんなかに、ほっとできる瞬間がそばにある社会を皆んなで緩やかにつくっていきませんか。
編集・書き手・写真 : 草田彩夏(佐賀県こども家庭課 地域おこし協力隊)

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