後輩からタメ口で話しかけられる講義

1月23日(月)

今週は10年に1度の最強寒波とやらでめちゃくちゃ寒いらしい。

そんな週に大学では後期の試験週間が始まる。
自分が通っている大学は人数も多く割と山に近いため自分も含め電車やバス、アストラムライン(広島市周辺を走る電車)などの交通機関を使って通学している人も多い。
なので、交通機関がストップすると多くの生徒が大学に来れなくなってしまうので休講になりがちである。
その影響で試験が延長されるのはGPA平均以下単位ギリギリ怠惰大学生にとっては勘弁願いたい事である。

今日は事前に期末レポートを提出する講義だけだったので大学に行かなくて良かった。
ただ、怠惰大学生なので明日〆切の2000字で現状0文字の期末レポートがある。
このレポートは紙に印刷して大学のレポートボックスへ直接提出しなければいけないタイプのやつである。
因みに土日は自分のPCに一切触れなかった。
土日は休む日なので。
社会人になったら「完全」週休二日制じゃないと生きていけない人種である。


そのレポートの講義は学科の必修単位でほとんどの人が前年の2年の時に履修して単位を修得するらしい。
ただ、1限というだけで後先何も考えていなかった怠惰大学生はこの講義を履修しなかった事により、3年になって必修単位である事を教学センターから電話から告げられ履修するはめとなった。
自分は片道約2時間かけて電車とバスで通学しているので毎週火曜は朝6時30分に起床しなければいけなくなった。電車の中ではよだれを垂らしながら睡眠負債を返済している。

そんな怠惰大学生にとっては最悪なこの講義だが、先程言ったようにほとんどの人が前年の2年で履修する単位である。

つまり、必然的に周りは後輩だらけとなる。

ただでさえ肩身が狭い環境に関わらずこの肩身の狭さに追い討ちをかけたのが、よりによってグループワーク中心の講義だった事である。
予習課題が毎週出されその要約をプリントの問いに合うようにまとめて、それぞれの意見を交換しなければならない。


それは、つまり、何が起きるかというと、


真正面から後輩にタメ口で話しかけられる、という事である。(後輩は悪くない)


グループワークで課題の意見交換の時にもタメ口で話しかけられるのだが、特に怖かったのがグループワークが早めに終わってしまった時である。


話す事が無くなると始まるのは必然的に世間話。


「ゼミどこにするかもう決まった?」


半年前からゼミに入っている人間が目の前にいる事も気づかずに。

「○○の課題ってもうやった?」
「○○の発表って来週だよね?何も準備してないんだけど〜」


○○の課題か、○○の発表あったな、そいや自分は発表するグループだったな、と1年前を懐古している人間が目の前にいる事も気づかずに。



もし話題を振られたらどうするか、正直に3年である事を話せば楽である。
ただこれまでタメ口で話してきた人が突然先輩であった事が分かれば非常に気まずい空気になってしまう可能性が高い。

そんな空気を想像するだけで耐えられない。

ならば「俺も○○の課題まだやってないわ〜」とか「俺のグループは○○の発表じゃないよ〜」と1年前の記憶をもとに嘘をついてでもその場を空気を守った方が得策か。

よし、1年前の記憶をもとに嘘をつこう。


いつでも話題を振られた時の準備はしていた。


ただ、勿論話しかけられない事が至極1番である。なので、意味も無いのにスマホをちらちら見たり意味も無いのにプリントに何か書き加えたり、極力目は合わせず下を向いたりしてコミュ障の「とくせい:話しかけんなオーラ」を存分に出した。

全ては目の前の人間が突然先輩になってしまう事故を防ぐためである。




そりゃもちろん!!!!!!
本当なら!!!!!!!!!
自分だって!!!!!!!!
楽しく話せますよ!?!?!?!?!?!?



しかし、冷や汗は講義の最後まで止まらない。
講義の最後にグループワークをしたグループメンバー全員の学籍番号と名前をプリントに書かなければいけない。
自分のプリントを回していってそれぞれのプリントに自分の学籍番号と名前を書いていくという形である。

そこでプリントに書かれてある学年を表す始まりの数字が明らかに違う学籍番号を後輩たちは目にするだろう。

その時に
(あっ…この人1個上の人だったんだ…)
と思われて
「さっきタメ口で話してしまってすみません!てっきり同級生かと思ってしまって!!」
と謝られてしまい
「私もすみません!!」
「僕もすみません!!」
みたいな事になり
「いえいえ…!!全然大丈夫よ…!!」と苦笑いを浮かべながら突然先輩となった人間を目の前に気まずい空気に…

その空気を想像するだけで耐えられない。

たださっきと違い、ここでは1個上だという事が完全にバレているため後は後輩次第である。

最後まで「話しかけんなオーラ」を存分に出す。
もはやここまで来ると心の中で「話しかけるなよ…謝ってくるなよ…」と念じている。

「話しかけんなの念」を送り続ける。







そんな「話しかけんなオーラ」と「話しかけんなの念」を出すこと15週間。





見事に話しかけられなかった。



事故は起きなかった。



コミュ障で良かった。

陰キャで良かった。

「話しかけんなオーラ」と「話しかけんなの念」のレベルはめちゃくちゃアップしたに違いない。


でもよく考えたら、後輩たちも謝ったら謝ったで変な空気になる事は分かってて何も触れてこなかったのだと思う。
逆の立場だったらそうするし。

あと今書きながら思ったけど、先輩だと分かった所でそんなビビるほど変な空気にはなんないか。


いや、やっぱなる。なるよ。


でもそんな時に「全然気にせんでいいよ!むしろタメ口の方が距離感近くて嬉しいもん!そもそも俺さ、2年の時に必修科目って事知らんくてさ!それで履修せんかったら教学センターから電話かかってきてさ!びっくりよ!え!必修だったんすか!ってwww それで今回履修したらほとんど後輩だったわwww マジで肩身狭すぎwww でも逆に後輩じゃけん気が楽やわ!今度飛んだ時があったらプリント見せてや!そうだ!そん時のためにもLINE交換せん!?」

って振る舞えたら人生楽しいだろうな〜



全然陰キャでも楽しいからいいけど!!!




そんな苦労(?)を重ねて来た講義の期末レポート。
じゃあ何でもっと早く取りかからなかったんだと言う声は怠惰大学生にとってナンセンスであるのであしからず。

ここで「とくせい:怠惰」を発動させてしまうと、これまで15週に渡り後輩からタメ口で話しかけられていつバレないかと肩身の狭い思いをした日々が全て水の泡となってしまう。

そのため、朝10時30分に起床し、11時の電車に乗り、13時に梅おかか(1番好き)のおにぎりを喰らった。

そして13時30分
2000字のレポートに取り掛かる。

タイムリミットは16時30分まで。
印刷してホッチキスでとめたものを教学センターの提出ボックスに提出しなければならない。

場所は名前の知らない部屋で、デスクトップのPCが30台ぐらいあるいわゆる「パソコン室」みたいな部屋である。この部屋ではゼミのレポート課題とかもよくやっていて個人的に集中出来て好きな部屋だ。
大学の図書館は静かで良いのだが、居る人の半分はスマホいじってたり普通に寝てたりと静かなる治安の悪さがあるため、ついつい自分もTwitterを見て気づけば1時間みたいな事が多々ある。

ただ、このパソコン室はPCがずらっと並んでおりPCを使いたい人が集まった空間であるため図書館のように休憩場所として佇んでいる人はほとんどいない。
(たまに派手な色のニット帽を被った陽キャとかが寝てたりするけど、その度胸羨ましい)


レポートは順調に進む。

やはりこのパソコン室では集中出来る。

Twitterも10分ぐらいしか見なかった。



そして、16時15分。
約2100字のレポートが完成した。
あとはこのWordの文章をプリンターで印刷するだけ。


ただ、ここで気になる問題があった。

さっきまでプリンターがピーピー鳴いていたのだ。

自分の向かいに座っている男性がPCからデータを送信し印刷された紙を取りに行くとピーピーと鳴き始め、もう1度席に戻りPCを操作しプリンターの方に向かうと再びピーピーと鳴き始める、それを何度か繰り返した後男性は鳴き止まないプリンターに観念した様子で部屋を出てスタッフを呼びに行った。
スタッフは男性に説明を受けながらプリンターを鳴き止まそうとする。

その姿はまるで泣き止まない我が子に混乱した父親に救いの手を差し伸べる母親のようであった。

しかし、母親がどんなにあやしてもその思いはプリンターには届かず鳴き止まない。
どうも機嫌が悪いみたいだ。
何か気持ち悪い所があるのだろうか。




時刻は16時すぎ。
レポートは順調に進み約1800字を超え時間内に終わる目処が経った時に起こったトラブル。

最悪の事態が頭をよぎる。

後輩からタメ口で話しかけられ肩身の狭い思いをした日々が走馬灯のように駆け巡る。
これまでの辛抱が全て水の泡に…


ここでスタッフが動く。
1度部屋を後にしてビニールに入った黒い何かを持って戻ってきた。プリンターと同じ横幅の大きさがある黒い物体。
そして、プリンターの中から全く同じものを取り出しビニールの中の物と入れ替える。

その姿はまるで泣き止まない我が子のオムツを替える母親のようであった。


すると、鳴き声は聞こえなくなった。

男性がもう1度PCからデータを送信する。

自分のキーボードを打つ手も数分前から止まっている。

祈るような気持ちで見つめる。


いつもの機械音が聞こえてきた。

プリンターから印刷された紙が出てきた。

プリンターは機嫌を直したようだった。

男性はスタッフに礼を言った。
自分も最敬礼の気持ちを込めて首を5度ほど曲げて礼をした。



そして、16時15分。
約2100字のレポートが完成した。
あとはこのWordを紙に印刷するだけ。


一縷の不安。


プリンターの機嫌は本当に直っただろうか。


もうピーピー鳴くなよ…






鳴くなよ…




鳴くなよ…




「ピーピー鳴くなよの念」を送り続ける。





Wordの「印刷」ボタンを押す。





プリンターは元気に音を立てて印刷し始めた。

プリンターは笑っているようだった。



そして、印刷した紙を自宅から持ってきたホッチキスで止めて提出ボックスへ無事に提出完了。


怠惰大学生、単位取得へ大きな一歩。



GPAはどんなに低くてもいいので単位だけはください。



2個下の後輩からタメ口で話しかけられるのは流石にご勘弁なので。


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