⑦北海道の突風
「お前の道を進め。人には勝手な事を言わせておけ」
イタリア人詩人・ダンテ
1番の敵って対人でなく、見えないものであると思います。
それはその時々によって変わりますが、最たる例は「自分」であると思います。
それはより苦しい状況であればある程…。
小樽から先の北海道の旅路はまさにその戦いでした。
小樽を出た日はこの上ない晴天でした。
前日の暴風雨が嘘の様な快晴。
夏の様に暑い日差しの日でした。
ゲストハウス・otaru YADOさんでKさんやスタッフさんとお別れ。
Kさんは札幌、稚内そして道東に向かいました。
対して自分は函館を目指して道南に向かいます。
お互い自分達が通ってきた道を通るので、あらかじめ道筋を教え合いました。
旅は出会いと別れの繰り返し。
別れ際とその後の道中は孤独感に襲われてとても寂しい気持ちになります。
けどそれを乗り越えて成長をするものと思っています。
小樽を出てから自分は西に進みます。
とりあえずお隣の余市へ。
距離にして20キロ程。
大した距離ではありませんが、上り坂が多いのと1日オフで身体が鈍ってしまった事、そして向かい風が強かった事が重なり中々前に進みません。
2時間くらいで行けるのが3時間ほどかかりました。
しかしその道中が綺麗で嫌な気は全然しませんでした。
北海道の自然は雄大で見てるものの気持ちを昂らせます。
海を見ながらのサイクリングほど贅沢なものはありません。
そして北海道は人が優しい。
余市に入りコンビニでご飯を食べていると通りかかったおじさまが、
「携帯充電していくか?」
といきなりおもてなし。
日本縦断の看板が目に止まり、気を遣って下さったのです。
流石に申し訳ないので断りましたが、今度は冷たい飲み物と地べたで食べるのもアレだからと椅子を用意してくれました。
いきなりの至れり尽せりで戸惑いましたが、お言葉に甘えて椅子と飲み物はいただく事に。
東京在住の自分にとってこの距離感や優しさはかなり戸惑いました。
けどこういった人を助けようという考えはとても素晴らしいと思いましたし、今後自分もそういう人間になろうと思う様になりました。
余市から先は2通りのルートに分かれます。
そのまま229号を直進して神威岬に行くルート。
あるいは5号線に入って岩内町に向かうルート。
神威岬はKさんが通ったルートで、その岬の景色がとても綺麗だと教えてくれました。
しかし難点として道中電波が通りにくいのとかなりの突風であるといのも聞きました。
色々検討した結果、人と違うルートで行きたいと思い岩内町ルートにします。
余市から岩内まで約40キロ。
陽が落ちる前には着く距離です。
しかし自然というのは気まぐれであり残酷。
昨日の暴風雨の風が午後になると勢いを増し始め、向かい風として立ちはだかります。
建物があれば遮ったり出来るのですが、北海道の田舎道だけあってそんなものは一切なし。
風をモロに受けながら進む事になります。
途中通りかかった人やバイクから応援の声を貰って何とか気持ちを保ちながら進みますが、風は強くなる一方。
ついに平坦な道にも関わらず押しながら進む事になります。
しかしそれでは終わらないのが北海道。
岩内は山を越えた先にある町なので今度は峠を越える事になります。
峠の名前は「稲穂峠」。
かなり大きい山だったのか道の途中に「何合目」と書かれています。
その山道を今度は登る事になるのですが、それがとんでもない坂。
急+距離もあるという坂で、登っても登っても終わりが見えません。
陽も少しずつ傾き始め、徐々に焦り始めます。
街頭も少ないので暗くなったら一貫の終わり。
しかも北海道だからどんな動物が出るか分からない。
「やばい。このままだと本当に死ぬ。」
と生まれて初めて死の恐怖感を感じました。
それくらい坂道が終わらず暗くなり焦りました。
その後死ぬ思いで頂上まで登り、そこから猛スピードで下山。
無事山越えをしました。
山を下って着いてようやく岩内町に到着。
岩内町は札幌や小樽と違って静かな住宅街。
そして一歩外れれば山と海があるといった自然溢れる街です。
時間は5時過ぎ。
陽が落ちて少し薄暗くなっていました。
突風と山越えで身体はふらふら。
コンビニでご飯を食べる事にしましたが、消費カロリーが激しく全然足らない。
でもお金も小樽で使ったので節約せざるを得ない。
精神的にかなりキツいです。
でもこれが貧乏旅。
過酷な旅ほど、若いうちでしか無理だと思います。
疲れと空腹の身体を引きずりながら寝床探しへ。
この日はもちろん野宿です。
地元の人に聞きながら野宿出来るところを探します。
そして見つけたのが「野球場」
本来野球場はスタンドも鍵がかけられて入れない所が多いのですが、その球場はフリーで入れる所でした。
理想では草っ原でテントを張って寝るのが1番でしたが、風が強かったのと疲れてテントを立てるのがめんどくさかったので諦めてこの球場のスタンドで寝ることに。
バックを枕にし、寝袋に包まり完成。
コンクリートが固く寝ずらいのは我慢。
野宿中は普段の布団の有り難みを凄く感じます。
すぐに外は真っ暗。
あまりの暗さにビビりますが、空を見るとプラネタリウムが広がっていました。
普通に流れ星がビュンビュン飛び交う星空。
東京では到底見れないその景色を見て、自然の偉大さと旅でしか得られないその経験を噛み締めていました。