芸人・友近ちゃんと初めて会った日の事のこと。のこと。
2021年7月13日。
盛夏のこの日、朝から部屋の掃除を済ませると普段はやらない『バラの水』を部屋の上の隅にしゅしゅしゅっとふった。
その時、部屋が少しキラキラしたように感じた。
少しおそめの昼食をとった後、頂いていたオーダーのシャツを作るためにミシンを踏んでいた。
この頃、お店は週末だけだったので平日だったこの日は、一階の店舗の窓はカーテンを閉めていた。
携帯の電話がなった。
ゲイの友人だった。
「なにしてんのぉ〜。どうせ暇してんでしょ〜。」
“もしもし”を言う前にゲイ子はまくし立ててきた。
「暇ちゃうけど付き合うよ〜」
ゲイ子はいつも突拍子もなく連絡をよこし、退屈な私の日常を振りまわしてくれる。
「暑いからさぁ〜海行かない⁉︎男誘ったからさぁ、あんたも来なさいよ〜♪」とおっさんのくせにギャルっぽくはしゃぐ。
「家の近くに行ったら連絡するから〜♡」
海に行く支度をして待っていたけれど、やはりゲイ子はなかなか現れないのでYouTubeの『千鳥の相席食堂』を見ながらまた、ミシンを踏み始めた。
相席食堂を見ながら…
「ロケで千鳥がこの辺に来てばったり会うようなことがあったら…。友近がすごい芸人やって事を語っちゃうなぁ。千鳥…来んかなぁ…。」と、ふ…とこんなことを思っていた。
その時の私は、海に行く約束をしてなかなか現れないゲイ子よりも、千鳥が来て欲しいことを本気で思っていた。
「遅いな。アイツ。」
アイスをなめながら一階に降り、店舗のカーテンをシャァー!と勢いよく開け放った。
するとそこには、何かの取材っぽい団体が茶舗の前をゆっくり歩いていた。
窓を開け「あれ?なんかの取材ですか?」と目に留まったアナウンサーっぽい男性に声をかけた。
その瞬間だった。
『…?あれ…?なんか…見たことある…。あれ?えっ⁉︎友近やんっ⁉︎』
男性アナウンサーと一緒にいた女性が友近だと分かった瞬間、私の口は酸素を求めて喘ぐ金魚みたいにパクパクなった。
「え…あ…あの…え…⁉︎マジで…⁉︎」
酸素不足の私の口からでた言葉はこれが精一杯。
「めっちゃ…尊敬…してますです…」と酸素不足引き続き継続中ながら喘ぐように伝えた。
私のその時の表情なども含め見た友近ちゃんは
「嬉しいわぁ。そんな風に言ってくれて。」と答えた。
がっ!
その瞬間‼︎
なにを思ったか私ってば
『あれ?友近ちゃん、私のこと知ってません?私はもちろんあなたのこと知ってるけど、あなたも私のこと知ってませんか?』って。心の中で呟いたのだ。
そんなわけないのに…。
でも そう思っちゃったのだ。
その瞬間から
タメ口…。
友近ちゃんに…。
いやぁ〜。
なにこの感覚⁉︎
この時から『カメラに撮られている緊張』が含まった緊張感はどこかにいき、友達と話すような感覚で会話が続いた。
「いや、今日さぁ、しかもさっきさぁ、」
私はついさっき相席食堂見ながら思っていた事を友近ちゃんに伝えた。
男性アナウンサーも友近ちゃんも少しびっくりした顔はしてたけど、
「千鳥すっ飛ばして本人来たね〜ww」と笑いあった。
そして千鳥に語るはずだった「友近のすごいとこ」を本人に惜しげもなく伝えた。
友近ちゃんは嬉しそうだった。
その後も私と友近ちゃんのポップで軽快なトークは続いた。
「キャンベルさん、いつもの感じじゃないですね…ww」と、クルーの誰かが笑いながら言った。
そりゃそうだろ。
なにか言っても「へぇ〜。そうなんですか」と受け流していくアナウンサーとはまるで違って、ピンで頂点にいるさすがの芸人はどんなボールでもあざとく拾ってくれる。それはまるでお蝶夫人。
トークはすべて可憐だった。
アポなしの取材は終わり、カメラさんが店の中を撮っている時。
お蝶夫人友近が私にどえらい事を言ってきた。
「キャンベルさん、間のとり方といい、話し方といい…完璧です。」
ふっ!ふっ!ふっ!ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜‼︎
かっ!完璧くれた〜‼︎
頂点の芸人から完璧もろた〜‼︎
深々と頭を下げ
「有難う御座います。」と、興奮爆発を必死で抑えながら答えた。
カメラ回ってないとこで言うのだから。
マジのやつやん…‼︎
お母ぁさん〜‼︎
学校の通知表、1と2ばかりだったけどぉ〜‼︎
「完璧です」を貰えたよ〜‼︎
お母ぁさん〜‼︎みてる〜⁉︎みえてる〜⁉︎
小学校時代は通知表を持って帰るたび正座させられ評価が低いことを延々と罵られていた。
そして自己評価が低いまま成長するが、長い年月が記憶を薄め自信をつけていく経験が、通知表の評価が低かったあの頃の幼い私に「大丈夫だよ。なんでもできる人間になっていくよ。」と頭を撫でてあげていた。
時間をかけてゆっくり発酵と熟成を繰り返し、遂には『完璧』の称号をいただけた。
夜。
友近ちゃんのインスタを探し、早速フォローしたあと
「今日は非日常の楽しさを有難うございました。TVないけどこれからも応援しています。」
と、忙しさの邪魔にならないよう一言、喜びの気持ちを含めたメールを送った。
もちろん返事が来ることなど微塵も期待していない。
ところが。
15分後に、ピコン♪と返信メール‼︎
そこには私が送った一言メールよりも長い長い言葉がっ‼︎
お笑いのことを本気で考えている芸人がどれほどいるか、TVなどなくても向上できる術はあることなどなどなどなどなどなどなどなどが書かれていた。
「こ、これ、私が読んでいいやつ…⁉︎」
芸人みたいだけど、そこを目指してる芸人になるつもりない私は、空気読んでそのメッセージにピコンと『❤️』をつけておいた。
これが友近ちゃんに初めて会った日の事のこと。
あ、ゲイ子⁉︎
なんか結局、男と2人で海行ったみたいww