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『この夜が明ければ』文庫化します

10月9日に双葉社から文庫『この夜が明ければ』が刊行されます。こちらは2021年10月に刊行された、単行本の文庫化になります。

丸3年を経ての文庫化ということで、改めて文庫化のゲラ作業で頭から読み直したんですけれども、「いろいろ直したいな」という思いが半分、「今の自分だったらもう書けないな」っていう思いが半分ずつあって、結局、ほとんど手直しはしなかったです。

文庫化の時にはいつもどこまで直すべきか迷います。単行本を出した時から2年なり3年なりを経ていると、当然、作家として考えることとか書きたいものも変わってくるので、「ここは書き直した方がいいのかな」と悩むんですけれど、毎回大きな変更はしないまま文庫化するということが多いです。

というのも、3年後の今はもう書けないであろう文章や展開が、この小説の中でも頻出するんですよね。それを今の視点から削り取ってしまうのは、いささかもったいないんじゃないだろうか、と思ってしまうんです。

表現には絶対的正解がないので、今の僕が甘いと思うような描写であっても、そちらの方が心に響く読者の方もいらっしゃるかもしれないですよね。この本が出た時は34歳だったんですけれど、34歳の岩井が考えて出した結論なので、そこは当時の自分を尊重してあげたい気持ちもあります。

クオリティを高めるうえで何が正解なのかはすごく難しい課題です。ただ、僕自身は執筆って即興演奏に近いものだと思っているんです。例えば、今日と明日であっても、同じ場面を書いたら違う文章になると思うんですよね。最近はあんまりないですけど、昔はパソコンの保存がうまくいってなくて、wordで1日かけて書いた文章が消えちゃった、みたいなことがたまにありました。そういう時、全く同じ場面を次の日にもう一度書き直すと、全然違う内容になってるんですよね。

これは、2回目になったことでより小説への理解度が深まったから文章が変わるんだ、という言い方もできるんですけれど、それだけではないと思います。即興演奏と同じように、その時その時でしか書けない文章というのはきっとあると思うし、そこも含めて小説だと思っています。なので、世に出る前ならともかく、単行本として人の目に触れたものであれば、なるべくそのままの形で普及させてあげたいなと思っています。少なくとも『この夜が明ければ』という小説に関してはそうしました。

今回の文庫化に際して、解説の執筆もお願いしました。「これが初めての解説」という方にお願いしていますので、合わせてお楽しみいただければと思います。公式発売日は10月9日です。

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