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知識がある人に見える世界


また南方熊楠の話で恐縮なんですが、熊楠が土宜法龍という僧侶に書いた手紙の中に、こういう一節がありまして。

熱地の海浜等にて地に坐して海をながめ、いろいろ海に関係ある古人の語など想起し、また海波の岸を打つ音を聞いて補陀落の順礼歌など思い出だし楽しみおりたり。側にありし黒人もやはり同じくすわりおりたり。されど小生の方、真の楽は多かりしようなり。これ多く事を知れるによる。

南方熊楠『南方熊楠コレクション 南方マンダラ』(河出文庫)

つまりは、自分の方が海に関する知識があるから、より海というものを楽しむことができた、ということを言っているんですね。本当にその黒人の方が熊楠より楽しめていなかったのかどうかは確かめようがないんですけれど。熊楠が言いたかったのは、「多く事を知れる」ことで、海に関する古人の言葉であったり、歌であったりを思い出すことができ、目の前の景色がより深く楽しめるということだと思うんです。

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