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心臓を焼いた話
同じような症状の方に知ってもらいたくて初めて公表するんですが、昨年の秋に心房細動の手術を受けました。
2021年頃から不整脈や動悸を感じるようになり、なんとなく気にはなっていたんです。でも胸に激痛が走るということもなかったので、1年くらい放置していました。当時はフルタイムで会社員をやりながら小説家をやるという、激烈に忙しい時期だったこともありました。ただ家族に勧められ、専門のお医者さんにかかってホルター心電図の検査をしたところ、心房細動と診断されました。
心房細動って動悸や倦怠感、息切れが起こったりはするんですけれど、それ自体が死因になるような病気ではないようです。ただ、心房細動の状態が続くことで、脳梗塞や心不全が引き起こされる可能性があるので、長期的に見ると大いにリスクがあるといえます。不快なだけじゃなくて、大病につながるかもしれない、というのがポイントです。
診断から1年くらいは、処方された薬を頓服で服用してやり過ごしていたんですけれど、どうも良くなる気配がないし、やっぱり気になる。ある時、主治医の先生から「ほっといても治るものじゃないから、若いうちに手術をしてしまうという選択肢もありますよ」と言われました。その頃はすでに会社員を辞めて専業作家になっていたので、時間の方はなんとかなる。家族とも相談して、大きな病院で入院手術をすることにしました。3泊4日の手術なので、それなりに家を空けることにはなるんですけど、入院中も原稿が少しはできそうだということでゲラを二冊分持っていきました。
僕が受けたのは、カテーテルを使った冷凍心筋焼灼術(クライオアブレーション)という術式でした。手術を担当してくださった先生によると、大腿部の血管から管を送り込んで、心臓の中に風船を入れ、その風船を膨らませて「洞結節」という部分を冷凍凝固壊死させるというものでした。心房細動の場合、この洞結節が悪さをしていることがほとんどだそうです。
「簡単に言うと、心臓を焼いてしまう、ということですね」
実は入院するのも手術するのも、生まれて初めての経験で。不謹慎なんですが、少しワクワクする気分もありました。手術当日は朝からオペだったので、ほぼ一日意識がなかったですし、麻酔から醒めた後もしばらく朦朧としていて、はっきりとした記憶がないです。ただ、持って行ったゲラ二本は終わらせました。これは僕が勤勉というわけではなく、余裕をもって入院スケジュールを組んでくださったおかげです。
手術をしてから半年以上経つんですけれど、ほとんど動悸や不整脈がないんですよね。お酒を飲み過ぎてしまった時に少し動悸を感じたことはあったんですけれど、それは単純にアルコールのせいのような気もするし、少なくとも手術前のように平常時に動悸が起こることはなくなりました。
これは、思っていた以上に快適です。もともと痛みはなかったですが、寝る前や寝起き、日中の不規則な動悸がなくなるだけでこんなに心穏やかなのか、という驚きがありました。「なんか心臓がドキドキして怖い」という感覚がなくなるんですよね。いつかいきなり倒れるんじゃないか、みたいな思いから解放されたことでとても安らかに過ごせます。
僕と同じように、体の不調があったり気になるところはあるけれど、ちゃんと検査はしたことがないという人は相当いるんじゃないでしょうか。30代で心房細動の手術をするって比較的珍しいことではあるんですけど、放置してたら早々に脳梗塞とか心不全になっていた可能性があるので、早めに手術できたのは本当に良かったです。少しでも体調に気になることがある人は、ぜひ検査に行ってください。
3泊4日の入院手術って言うと大層なことのように聞こえるんですけれど、それで365日快適に過ごせるようになるのであれば、やる価値はあると思います。年齢は関係ないです。同世代の友人でも、大きな病気をする人がちらほら出てきています。普段から動悸や不整脈がある方、是非一度、心房細動の検査をしてください。