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「山本有三記念館春の朗読コンサート2024」に寄せて③

「山本有三記念館春の朗読コンサート2024」に寄せて③

演奏プログラム内で
Jシェンクの曲集「楽の戯れ」より
小品を演奏します。

Jシェンクについては
以前、「楽の戯れ」を取り上げた企画で
紹介文を書きましたので
そこから引用します。

🌿🌿🌿

Jシェンクは1660年に
オランダのアムステルダムで生を受けました。

彼は高い技術を誇るヴィオラ・ダ・ガンバ奏者であり
当時のアムステルダム市民の協力により
数多くの室内楽、及び
ヴィオラ・ダ・ガンバの独奏曲を出版しました。

一方で、初期のオランダ語によるオペラ
及び、オランダ語の歌曲集も残したことも
伝わっています。

彼の作風について
今回、いくつか資料を当たる中で
イギリスやボエミアの
弦楽奏法の流れを組んでいると
そういう見方をしているものもありました。

私は、シェンクの
複合的で立体的な楽器の使い方が
とても好きで
機会があれば取り上げたいと思っていました。

願いが叶い
シェンクの「ラインのニンフ」で
プログラムを組んだ演奏会をやりました。
この曲集はop.8、
1702年にアムステルダムで出版されたものです。
全曲がガンバ2台のために書かれています。
色彩感溢れる重音を豊かに使い
もう一台のガンバが力強く旋律を歌う
2台ガンバの表現力を
彼の地域、時代的立ち位置の中で
具現化した作品集でした。
「ソナタ」ということになっていますが
舞曲も多く
例えば、フランスものの組曲では
あまり出てこない舞曲も入っていて
演奏経験が浅い舞曲も
奏法をもっと勉強していきたいと
その時、思ったのを覚えています。

🌿🌿🌿

今は、世界の名画を
ネットの画像で見ることができますね。

例えば、フェルメール…
見ていると、時間があっという間に経つので
気をつけなければいけませんが。

有名な
「真珠の耳飾りの少女」
手紙を扱った
「恋文」
「手紙を書く婦人と召使い」
そして、
「ヴァージナルの前に立つ女」
「リュートを調弦する女」など
楽器が描かれている作品には
やはり、特別なときめきを覚えます。
「ヴァージナルの前に座る女」
「音楽の稽古」には
ヴィオラ・ダ・ガンバが描かれています。

彼の作品は
陰影と光の緻密なコントラスト
複雑な配置構図など
バロックの魅力を持ちながら
同時代の題材は神話や聖書、静物画、肖像画が多い中
豊かな市民生活に焦点が当てられます。
バロック時代を生きた人々に想いを馳せる身としては
特別に心惹かれてしまうのです。

17世紀のオランダは
「黄金時代」と呼ばれています。

大陸の内外を問わず
国際貿易の大成功によって
財力を持ち、自立した市民が力を持ちました。

微妙なパワーバランスやしがらみを背景に持つ貴族と違い
自由意識の市民が文化芸術においても
保護育成の役目を果たしました。
出版の技術も高く
その環境、気運はフランスからデカルトを呼び寄せ
スピノザなど国内の哲学者にも大きな影響を与えることとなります。
他の国では問題になる内容の哲学書、科学書でも
出版可能だったそうです。

しかし、どのような自由意識も
無抵抗で勝ち取れるはずはありません。
スペインとの80年戦争
イギリスとの第三次英蘭戦争
フランスのオランダ侵略戦争は
いずれもこの時代に起きています。

そして、やはりこの時代は宗教弾圧があり
芸術文化を「穢らわしいもの」として排除する動きさえあったと聞きます。
その影響なのか
教会、貴族は
芸術保護に無関心でさえあったと
記述で見ました。

その中で、美しさ、価値を見出したものを
伝えていこう、後世に残そうと
美術、出版に尽力した市民のエネルギーは
どのようなものであったでしょう。

シェンクの「楽の戯れ」は
1698年(1702年の説あり)
アムステルダムで出版されました。

🌿🌿🌿

シェンクの「楽の戯れ」は
あの、ジョバンニ・グリエルモ氏に
献上されました。

ジョバンニ・グリエルモ氏です。

……
…誰?(^_^;)

彼は、通常ヨハン・ヴィルヘルムと呼ばれた
ライン地方を支配した宮中伯です。

1660年にアムステルダムで生まれたシェンクは
1696年頃、ヴィルヘルム氏の命により
デュッセルドルフの宮廷音楽家に就任しています。
 
就任以前に、
op.2として現存するヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音の曲集
そして、楽譜を入手することはできなかったのですが
1687年にオランダ語と通奏低音による歌曲集を出版しています。

ヴィオラ・ダ・ガンバの作曲者として主に知られるシェンクですが
最初の出版はオランダ語の歌曲集だったのです。

この作品は、「バッカス、セレス・エン・ヴィーナス」という
前年に上演されたオペラのアリア集です。
「オペラといえば、イタリア語」という常識があった時代に
母国語によるオペラを世に出した、
それは20代のシェンクが成し遂げた大功績だったといえましょう。

ところで、私達は
「楽の戯れ」と邦題をつけましたが
原語は「スケルツィ・ムジカーリ」といい
そもそも、モンテヴェルディによる歌曲集の題名です。

モンテヴェルディの
言葉と音楽が互いに表現を追求し
高め合う無数の可能性に
シェンクはどれだけ敬意を払っていたことでしょう。

シェンクはその生涯において、
いくどとなく歌曲集に取り組んでいたようですが
歌曲集はあくまでオランダ語による試みなので
イタリア語による題名を付けるわけにはいかなかった。
そこで、ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのこの作品に
「スケルツィ・ムジカーリ」と付けたのでしょう。

スケルツィは広く「冗談」という意味ですが
それは音楽の彩り、遊び心、ユーモア
そして、既成概念に挑戦する新しいアイディア、個性
そんなことが連想されます。
そして、そのどれも
音楽に留まらず
芸術として欠かすことのできない要素と言えるのではないでしょうか。

🌿🌿🌿

三鷹市山本有三記念館 
第15回春の朗読コンサート

朗読:野田香苗
ヴィオラダガンバ:藍原ゆき

随想『竹』他

Aフォルクレ
『ヴィオルと通奏低音の曲集』
(1747年パリ出版)より
第1組曲から「ラボルド氏のアルマンド」
第2組曲から「ブレイユ氏」「ルクレール氏」

Aキューネル
『1台もしくは2台のヴィオラダガンバと通奏低音のためのソナタ、パルティータ集』
(1698年カッセル出版)より
ソナタ11番ニ短調

Jシェンク
『楽の戯れ』
(1701年アムステルダム出版)より
組曲ヘ長調より「ガボットのテンポで」

2024年5月24日(金)、25日(土)
18:00開演

詳細はホームページをご覧ください

https://mitaka-sportsandculture.or.jp/yuzo/event/20240524_25/

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