見出し画像

「自作story」音楽と生きる

音楽と生きる



幸弥は、今日も音楽室の隅のあたりで基礎練習をしている。全音符を鳴らし、次に4分音符、8分音符、、、それから、音階の練習、アルペジオ、、、彼は黙々と練習している。
とはいえ彼自身は練習しているというよりも楽器の音そのものを楽しんでいるのである。彼は、曲を弾く自信がないから、ただ基礎練習をしている。周りは、まじめに取り組んでいる、1人が好きなのかという風な印象を持っているのだろう。
しかし、幸也は本当は寂しがりなのだ。彼は、楽器を鳴らしていればいつか誰かに興味を持ってもらえるだろう、きっと楽器が自分に幸せをもたらしてくれるだろう、と期待しているのである。


吹奏楽コンクールの時期になると、合奏をする機会も増える。
幸也は一人で楽器を鳴らすのも好きだが、合奏もまた、彼にとっては待ち遠しいイベントなのだ。
とはいえ、彼の演奏は特別上手で必要とされているわけでもない、低音楽器だからという理由で必要とされている。音はよく鳴らせているので、周りは彼にもっと期待するような、いてくれてありがとうという雰囲気である。
彼はというと、音程があっているかどうかが不安らしい、暇があればチューナーとにらめっこして音程が正確かどうか確かめている。周りは、音を外して注意されたり、失敗したと嘆いたり、笑ったり楽しそうである。そんな中、彼はいつも不安そうにしている。でもどこか幸せそうである。彼は、合奏している際の、音が合わさって踊っている感じがそれ以上ない幸せなのである。


幸也は高校2年生、勉強の秋と言われるその時期、授業は苦痛である。勉強が苦痛というわけではない、楽器に触れられないのが耐えられないのである。とはいえ世間的には勉強しておくのが無難なので、今日も仕方なく席につき勉強している。
授業から解放されると、幸也はいつものように音楽室へ駆けた。
楽器を弾く、今日も納得がいくまで楽器を弾く。基礎練習をする。
納得するというよりは、自分は何かを問うようにただ闇雲に楽器と向かい合う。いつかほかの誰かに認めてもらえる、そんな音を鳴らせるように


幸也は図書館に来ている。
試験期間前で部活ができないからだ。試験というものにはあまり興味がなく、なにか興味深い本はないものかと探している。まったく、不真面目なのか、真面目なのか。ほかの人とは、たまに話すが、なんとも彼自身は納得していないみたいである。人に、自分のことをわかってもらえないと感じているのだ。というわけで、なにか本を探すわけだが、読んでもすぐに飽きてしまう。ただ彼は、楽器が弾きたい。楽器と会える試験終了の日が待ち遠しい。楽器を弾いているとなんだか安心するから。

音楽って何だろう?人と楽しむもいいだろう、曲を弾ける喜び、聞いてもらえる喜びもまた良し。
幸也は今日も音楽と向き合っている。ただ、彼は、一人孤独と向き合っている。

いいなと思ったら応援しよう!