手。
午後、母とふたりで父の面会に。
お父さん、と声をかけると
眼を開けた。
開口いちばん、
アイスクリーム、と。
何でもないことばのようだけれど、
病室が一瞬で
家族の場所になる。
アイスクリームとジュース
チーズひと齧りとお茶、
おかきを少し。
いまの父の精一杯の
生きるチカラ。
父が趣味でつくっている切り絵を
額に入れて持参
リクエストの額はなかったが
母が選んだものに
父は文句を言わない
私が横から
お父さんの言うてた藤色が
えぇと思うわ、と
ヤイヤイ言う。
入院患者であることを
忘れたかのような
父の掠れた声を
聴きとりながら
咳き込みが治まるのを
待ちながら
夕刻、テレビで相撲の千秋楽
ほな、またね、と父の手を握る
声と同じくらい乾いた手が
優しくあたたかく、
またなぁ、と返した。