ポルトガルのクリスマスイブと結婚式 前編
ポルトガルへの出張中、クリスマスイブに遭遇した出来事とその後に駐在員として経験した話。
12月はいたる所で飾り付けがとても綺麗で、街行く人々の表情も何となく晴れやかな感じ。初めての欧州でのロマンティックなクリスマスイブを期待して、現地駐在員の取り纏め責任者に出張者二人組は夕食に連れて行ってもらうことに…
ところが当然のことながら、ポルトガルは敬虔なキリスト教徒の国。イブの夜は仕事などする訳もなく、店を閉めてミサに出かけているらしく営業している店は見当たらない。
焦った先輩は何とか食事にありつこうと、普段は自分も行かない下町の奥深くへ分け入り、やっとインド料理屋を見付けた。12月末のこの季節、寒さは凌げてほっと一息だが、ヨーロッパのクリスマスイブにインド料理かよ!
すっかりメンツが潰れて落込み気味の先輩と、大幅に期待が外れて失望感漂う二人組の晩餐が盛り上がるはずもなく、早々にお開きになった。
更に、我々の露骨な態度にも若干…かなり(?)…気分を害してしまったのか、先輩は ”自分の住まいは近くだから歩いて帰る、君らはタクシーでホテルへ帰ってくれ” と言い残していなくなってしまった。
”オイオイ、そんな殺生な!”と言う暇もなく取り残された二人。街灯はまばらで辺りは暗く、誰も歩いていない。ましてタクシーなんて待てど暮らせど来やしない。南欧ポルトガルとは言え、この季節、本当に寒い!寒い!
少しでも明るい方へとトボトボ歩きだす二人。すると、ミサが終わったのか、はたまたパーティーにでも出かけるのか、突然6~7人の若者が路地裏から現れた。
そこいらでは見かけぬ東洋人に不審な視線を向ける彼らに、ぎょっとして及び腰になる二人組。口々に何か言いながら近付いて来る若者たちに取り囲まれたが、何を言っているのか全く分からない。
クリスマスイブだし、危害を加えられる気配は無い(?)ようだが、このままではうまくない。とっさにポケットを探って触れた日本のマイルドセブンのパッケージを差し出した。すると相棒も、なぜ持っていたのか知らないが、開封前のハイチューをリーダー格の若者に渡す。
なにかシラーッとした空気の中、”これは皆さんへのプレゼント、メリークリスマス!” と言いおいて、足早にその場を離れた。本当は一目散に走り出したかったが…
少し行くと広場に出て、客を下ろしているタクシー発見。早速駆け寄り、遂にホテルへ帰る足を確保できた二人組だった。暖房が余り効いていないポルトガルのタクシーだが、それを不満に感じることもなく、この時はまさに地獄に仏、感謝!感謝!
翌朝、出張先の社長から電話。問われて前夜の顛末をさりげなく伝えると、少々慌てた様子で、埋め合わせにクリスマスランチを提案をされた。
海沿いにあるとても素敵なレストランでの食事は、昨夜のそれとのギャップもさることながら、これぞ長い歴史あるヨーロッパのクリスマスを祝うにふさわしいものであった。
今回、社長が少々焦った理由も含めて、後日談は後編で。