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[短編小説] 飛行機雲
何度歩いたかわからない帰り道に違和感を覚えた。一人で空を見上げて下校していた僕にとって、君が同じ道を歩くのはとても不思議だった。
どうやら引っ越したらしい。だけどその理由を聞けなかったのは、彼女の家の事情をなんとなくわかっていたからだった。彼女の足にはあざがあった。僕は何も言わなかったし、何も聞かなかった。
「あ、ねえ見て」
そう言って君は飛行機を指差す。そしてこれでもかと飛びながらそれに手を振り始めた。
「なんで飛行機に手振るの?乗ってる人は僕らのことなんて見えてないよ」
「見えるかもしれないじゃん」
そう言ってまた手を振った。僕もなんとなく右手をあげてみたけれど、君が振り返る瞬間にその手を下ろした。
「懐かしいなぁ」
君はまた、もっと遠くのところに引っ越すらしい。何メートルも、何キロも遠いところに。僕は勝手に、飛行機に手を振るような君なら、冬は雪だるまにマフラーでもかけそうだと思っていたけれど、ともにその季節の通学路を歩くことはできなかった。
僕は空を見上げ、何分も前に飛行機が飛んで行った名残に、誰にも気づかれないよう右手をあげた。