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中華の日々⑰ 東の男、おでん野郎に完敗する

日本では安物のはずの200グラム瓶のインスタントコーヒーが約1600円する、そんなことに改めて気づいた、とある深圳の日の夜――私はGhostGold会議のためにSkypeを開き、その夜は東京在住のGhostとコンタクトを取った。

早々に私たちの話は音楽から脱線した。というのもGhostに近況を聞いたところ、「こども食堂を立ち上げたいと考えるようになった」と非常にカッコいいことを言ったためで、それはもう私としては「何を出すの?」と尋ねるしかなかったからだ。

「おでんを出したい」とGhostは言った。
「そういえば、前々からおでんに傾倒しとったよな」
「そうそう。カレーとかおでんとか延々と煮るのが好きやねん。アドレナリンが湧いてくるから」
「がはは。湧くか、アドレナリン」
「湧く湧く。それで、冬っていうのもあるけど、特に今年はおでんに傾倒してんねん」
「おでん、ってなあ。そういえば、なんでか大っぴらに語られへんよな。誰もが知ってるし食べたこともあるやろうけど、なんでか表に出て来ないイメージがあるよな。ラーメンとかカレーとかは陽キャ感が凄いねんけど」
「そうやねんな。おでんはChillっていうか――」
「チルておまえ」爆笑した私にGhostはなおも言った。
「もっと言えばダウナーやな」
いよいよ私は大笑い、「おでんにダウナーって言った奴は初めてやわ」
「でもそうやろ? ラーメンとかカレーは明らかにアッパーやんか」
「それはそうやな」
「おでんはダウナーやねん」
「おまえ、おでんディスってるやんけ」
「いや、おでん愛から苦言を呈してるんや」
「ああ、おでん業界の現状に苦言を」
「そう」
「そうやな。たしかによく考えてみたら、おでんにも業界があるわけやな」
「そうやねん。だから、これからはもっとおでんの食べ歩きもしようと思ってんねん。こども食堂の件もあってやねんけど、ちゃんとおでんを追求しなあかんと思って」
「えらいおでん野郎やな」
くしくも傑作『あしたのジョー』屈指の名台詞「うどん野郎」と同じ字面、さらに同レベルの間抜けな響きだった。言った私もGhostも爆笑した。

というわけで私たちは大いにおでんについて語り合い、特にGhostは勢いあまって「これからは『おでん野郎』を名乗るわ。それで、食べ歩きに加えておでんYouTubeも始めたい」などと言い出した。私は無論とめず、「盛り上がってきやがったな、この年の瀬に。そうや、GhostGoldのTwitterでもおでんについて発言しまくったらええやんけ」とイカれたヨタを吐いたのだが、「それええな」と即答したのは流石のおでん野郎だった。

「2024年の方向性は決まったな」
「そうやな。まあ、第三者からしたら、完全にただのキマった奴らやけどな。でもまあ、ヒップホップが悪くてなんぼの世界なら、俺らGhostGoldはキマってキレててなんぼやな」
「そうやな」
「とりあえず、おでんを全開で打ち出していってな」
「うん。っていうか、おでん野郎やから、ボク」

私は笑い過ぎて声が枯れてしまった。おでん野郎に完敗、もとい乾杯! 
*これからギターを弾きに出かけるので、コーヒーにしておく。
*なお肝心の私がTwitterを見られないのだが、皆様に確認していただきたいと思っている。https://twitter.com/GhostGold22 


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