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僕が、まだ記憶というものを、過去とか未来とか現在といったもので理解した気になる以前のころの話だ。だから、僕は、この話を誰かから聞いたものと思っていた。それが祖母だったか、母だったか、わからないのだけれど。僕は、一体誰にこの話を聞いたのか。祖母に聞けばわかるかもしれない。母に聞けばわかるかもしれない。でも、だれに聞いても答えは同じことだった。 「そんなことあったかしらねえ」 「あったような気もするわ」 「そうよそうよ、あったわよ。私は覚えているわよ」 「いえ、そんなことはあり