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小説

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小説 written by Shinta SAKAMOTO 酒本信太が執筆した小説を集めた。 掌小説や短編小説が時折更新される。 これらの小説は、寝ているときに見る夢、深い瞑…
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#記憶

短編小説 - 嬰歌

 僕が、まだ記憶というものを、過去とか未来とか現在といったもので理解した気になる以前のころの話だ。だから、僕は、この話を誰かから聞いたものと思っていた。それが祖母だったか、母だったか、わからないのだけれど。僕は、一体誰にこの話を聞いたのか。祖母に聞けばわかるかもしれない。母に聞けばわかるかもしれない。でも、だれに聞いても答えは同じことだった。 「そんなことあったかしらねえ」 「あったような気もするわ」 「そうよそうよ、あったわよ。私は覚えているわよ」 「いえ、そんなことはあり