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最新判決「遠隔シャンパン事件」拒絶審決取消訴訟

「シャンパン」を含む商標の登録は許されるのか!
令和6(行ケ)10030  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟
令和6年9月11日  知的財産高等裁判所
判決が公開されて間もないので取り急ぎ公開します。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/339/093339_hanrei.pdf

会食の場にシャンパンを贈れるアプリ「シャンパる」を運営するエンカクジャパン株式会社の「遠隔シャンパン」の商標登録出願が「フランス国民の感情に配慮」して拒絶され、拒絶査定不服審判でも拒絶審決、さらに知財高裁に審決取消訴訟を上げても覆らなかったという事件です。

フランス国民の感情に配慮というのは特許庁・裁判所が勝手に忖度しすぎな感が否めません。
文句言われてからその妥当性を判断すれば良いのでは?
先日のジムニーファン事件と真逆の判断です。

遠隔シャンパンという文字商標について
当初の指定商品は

【第9類】   【指定商品(指定役務)】 電子出版物,電子応用機械器具及びその部品,電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・ サイクロトロン・産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器・超音波応用探知機・電子応用扉自動開閉装置・電子 顕微鏡」を除く。),電子計算機用プログラム,電気通信機械器具,家庭用テレビゲーム機用プログラム,コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),イン ターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル
【第35類】   【指定商品(指定役務)】 酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,飲食料品の小売又は卸売の業務 において行われる顧客に対する便益の提供
【第42類】   【指定商品(指定役務)】 電子データの保存用記憶領域の貸与,デザインの考案,電子計算機用プログラムの提供,電子計算機・ 自動車その他その用途に応じて的確な操作をするために は高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機の貸与,電気通信技術の分野に関する研究,コンピュー タシステムの分析,技術的課題の研究,データセキュリ ティに関する助言,ウェブサイトの作成又は保守,情報技術(IT)に関する助言,コンピュータシステムの設計,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの 提供(SaaS),電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,ウェブサーバーの貸与

と膨大ですが、案の定 拒絶理由通知が出ました。
出願人はToreruで出願したんですね。

拒絶理由は4条1項7号 シャンパンタワー事件と同じです。

本願商標をその指定 役務に使用するときは、著名な「シャンパン」の表示へのただ乗り(フリーライ ド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかり でなく、シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより国を 挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているフランス国民の 感情を害するおそれがあるものといえます。

商願2021-162042拒絶理由通知

つまり、シャンパンを含む商標を役務に使用することによってフランス国民の感情を害するおそれがあるということです。

これに対して出願人エンカクジャパンは補正と意見書提出をしました。
補正では指定商品を

【第9類】   【指定商品(指定役務)】 シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するためのコンピュータソフトウェア用アプリケーショ ン(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するための電子計算機用プログラム 【第35類】   【指定商品(指定役務)】 シャンパーニュ地方産の発泡性のワインの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提 【第42類】   【指定商品(指定役務)】 シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するための電子計算機用プログラムの提供,シャンパー ニュ地方産の発泡性のワインを注文するためのオンライ ンによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS)

と「シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを…」と始まるように限定しています。

フランス国民の感情に配慮という拒絶理由もなかなか理屈が足りない表現ではありますが、出願人代理人Toreruも少し不思議な意見書を出しています。

フランス国民の感情配慮が必要ではあるものの、ある程度普通名称に近しい形で使用されている以上 は、商標中に「シャンパン」の語を含む一切の商標を登録不可とすべきではありません。上述したように、出願人は指定商品「ワイン」について、「シャンパン」の語を言葉の独占使用を望んでいるものではなく、あくまで、小売サービスとして、 またそれに付随するアプリなどとしての権利取得を望むものです。よって、登録を認めることが公序良俗に反するとまでは言えないものであり、かつこの商標について独占的な使用を許さないということになれば、商標の構成中に「シャンパン」の語を含み、いわゆる「シャンパン」に関連する小売サービ ス等については広く独占使用権の取得を得ることができないということになって しまいます。  その構成自体は道徳に反するものではなく、さらに言うと、出願人は「シャンパン」の語自体を独占する意図はございません。よって、本願商標が商標法第4 条第1項第7号に該当するというご判断は妥当ではございません。

最初の一文は分かりますが、指定商品がワインじゃないとか、シャンパンの語自体を独占する意図はございませんって、当たり前すぎて不思議です。

そして「シャンパンのひ」の登録例を引き合いに出して登録を求めています。
ここについてはその通りだと思います。

指定商品をシャンパーニュ地方の発泡性ワインに限定してもなお公序良俗に反するという判断のはどうなんでしょう。
シャンパーニュ地方のものに限定してシャンパンという言葉が使われることはシャンパンの産地にとっても良いことだと思うのですが、、、


そして結局拒絶査定となってしまったために拒絶査定不服審判に移っています。
審判請求書や審尋の回答書では、「シャンパンは普通名称でとっくに希釈化されているし、本願(プログラム)より酒類での登録例の方がよっぽどフリーライドでフランス国民の心情を害するし、不公平だ!」という趣旨の主張をしています。
確かに実際シャンパンを含む登録例はいろいろあるようです。


回答書より 酒類以外のシャンパン登録例


回答書より 酒類シャンパン登録例


確かに、こちらはフランス国民の感情を害さず、遠隔シャンパンだと害するというのは不公平、予測不可能というのも分かります。


そして審決取消訴訟は西野弘起さんという弁護士に依頼したようですが、少し興味深い主張があります。

原告は、インターネットを通じて、ゲスト(客)が店舗のキャスト又はオ ーナー(店長等)に対し、シャンパン等をプレゼントするための「シャンパ る」という名称のアプリケーションを提供している。これは、店舗ごとに遠隔シャンパンが行われていたものを、スマートフォンのアプリケーションを 用いて、全国各地の店舗を検索してシャンパン等を注文することができる日 本初のサービスを提供するものであって、原告は「遠隔シャンパン」の商標 を取得するに値する。

店舗ごとに遠隔シャンパンは別々に行われていた。
それをアプリでできるようにしたのが原告だということです。

そして

我が国では、キャバレークラブ等を含むいわゆる夜の接客業において、「シャンパン」という言葉に「祝杯や祝福の象徴」という意味合いがあり、 単に酒類の名称を意味するものではない。

ということで、シャンパンという言葉は単に酒類の名称を意味するものではないのだそうです。祝杯・祝福の象徴としての意味なのだそうです。

ましてや、「遠隔」という言葉と組み合わさることによって、ゲストが実 際に店舗でシャンパン等を飲まないにもかかわらずシャンパン等を注文する 行為は、「祝杯や祝福」として「祝う」行為そのものを指しており、酒類としてのシャンパンそのものとは全く別の意味合いを有することになる。 したがって、本願商標は、必ずしも原産地統制名称のシャンパンに通じる語として使用されているとはいえない。

ぬぬぬ!「シャンパン」という言葉は「遠隔」という言葉と組み合わさることによって「祝う」行為そのものを指して、酒の名称とは全く別の意味合いになるのか!

「ひねる」という言葉が「おひねり」になると、ひねるという行為とは全く別の「ご祝儀」の意味になるというのと同じでしょうか。

そして、フランスのシャンパン委員会から文句を言われているならともかく、特許庁が勝手に判断するな!と主張しています。


これに対して裁判所は、原告が提出したインターネット記事はシャンパンという酒は祝杯や祝福の象徴とされることを説明しているにすぎず、その他原告の主張を裏付ける証拠はないとしてあっさり跳ね除けました。

国民感情については、
・これを使用することについて我が国の商標法上の保護を与えるときは、著名 な「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせることを許容する結果となるおそれがあるのから我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねない
・他にシャンパンを含む登録があることは関係ないし、
・(「登録前だから当然ではあるが)本願に異議・無効審判請求がされていないことによって左右されないから
原告の主張は採用できない。
とされました。

拒絶理由や審決では、
「使用するとフリーライド・ダイリューションが起きて感情を害する」
という話でした。

しかし高裁の判断では、
「使用することに商標法上の保護を与えると、フリーライド・ダイリューションを許容する結果となるおそれがあり、国同士の友好関係に影響を与えかねない」として、使用すること自体の問題というより、商標法上の保護を与えることが国同士の問題につながるという理論に変化しています。

お祝い云々は証拠不足として、シャンパン委員会が他の登録例に文句言ってないし特許庁が勝手に判断するなという主張に対しては、他の登録例の存在は関係ないという判断は疑問があります。

シャンパーニュ地方ぶどう
25 酒生産同業委員会(コミテ アンテルプロフェッショネル デ ヴァン
ドゥ シャンパーニュ)、原産地名称国立研究所(INAO)といった機関、団体が、
中略
「我が国においても、「CHAMPAGNE(シャンパン)」の 文字をその構成に含む商標の登録に対し、登録異議や無効審判を申し立て、 実際に多数の商標の登録が取消又は無効とされるに至っている。

という話が、どういった案件を指しているのか証拠まで見ていないので分かりませんが、本物のシャンパンの提供の役務の商標まで彼らの異議・無効審判によって取消・無効に至っているのでしょうか。
そしてその際の理由は妥当なものなのでしょうか。

シャンパン委員会から妥当な文句が入ることが予想されるならともかく、他の登録例が平穏に維持されているなら何で特許庁が勝手に判断するのでしょうか。
ジムニーファン事件と正反対の判断ですね。

今後もシャンパンの行方は注視したいですが、情報提供を受けたわけでもないのに忖度が過ぎる特許庁や高裁だなと感じます。
文句があるなら言ってきますし、その妥当性も判断したうえで判断すべきではないでしょうか。


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