最新判決「遠隔シャンパン事件」拒絶審決取消訴訟
「シャンパン」を含む商標の登録は許されるのか!
令和6(行ケ)10030 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
令和6年9月11日 知的財産高等裁判所
判決が公開されて間もないので取り急ぎ公開します。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/339/093339_hanrei.pdf
会食の場にシャンパンを贈れるアプリ「シャンパる」を運営するエンカクジャパン株式会社の「遠隔シャンパン」の商標登録出願が「フランス国民の感情に配慮」して拒絶され、拒絶査定不服審判でも拒絶審決、さらに知財高裁に審決取消訴訟を上げても覆らなかったという事件です。
フランス国民の感情に配慮というのは特許庁・裁判所が勝手に忖度しすぎな感が否めません。
文句言われてからその妥当性を判断すれば良いのでは?
先日のジムニーファン事件と真逆の判断です。
遠隔シャンパンという文字商標について
当初の指定商品は
と膨大ですが、案の定 拒絶理由通知が出ました。
出願人はToreruで出願したんですね。
拒絶理由は4条1項7号 シャンパンタワー事件と同じです。
つまり、シャンパンを含む商標を役務に使用することによってフランス国民の感情を害するおそれがあるということです。
これに対して出願人エンカクジャパンは補正と意見書提出をしました。
補正では指定商品を
と「シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを…」と始まるように限定しています。
フランス国民の感情に配慮という拒絶理由もなかなか理屈が足りない表現ではありますが、出願人代理人Toreruも少し不思議な意見書を出しています。
最初の一文は分かりますが、指定商品がワインじゃないとか、シャンパンの語自体を独占する意図はございませんって、当たり前すぎて不思議です。
そして「シャンパンのひ」の登録例を引き合いに出して登録を求めています。
ここについてはその通りだと思います。
指定商品をシャンパーニュ地方の発泡性ワインに限定してもなお公序良俗に反するという判断のはどうなんでしょう。
シャンパーニュ地方のものに限定してシャンパンという言葉が使われることはシャンパンの産地にとっても良いことだと思うのですが、、、
そして結局拒絶査定となってしまったために拒絶査定不服審判に移っています。
審判請求書や審尋の回答書では、「シャンパンは普通名称でとっくに希釈化されているし、本願(プログラム)より酒類での登録例の方がよっぽどフリーライドでフランス国民の心情を害するし、不公平だ!」という趣旨の主張をしています。
確かに実際シャンパンを含む登録例はいろいろあるようです。
確かに、こちらはフランス国民の感情を害さず、遠隔シャンパンだと害するというのは不公平、予測不可能というのも分かります。
そして審決取消訴訟は西野弘起さんという弁護士に依頼したようですが、少し興味深い主張があります。
店舗ごとに遠隔シャンパンは別々に行われていた。
それをアプリでできるようにしたのが原告だということです。
そして
ということで、シャンパンという言葉は単に酒類の名称を意味するものではないのだそうです。祝杯・祝福の象徴としての意味なのだそうです。
ぬぬぬ!「シャンパン」という言葉は「遠隔」という言葉と組み合わさることによって「祝う」行為そのものを指して、酒の名称とは全く別の意味合いになるのか!
「ひねる」という言葉が「おひねり」になると、ひねるという行為とは全く別の「ご祝儀」の意味になるというのと同じでしょうか。
そして、フランスのシャンパン委員会から文句を言われているならともかく、特許庁が勝手に判断するな!と主張しています。
これに対して裁判所は、原告が提出したインターネット記事はシャンパンという酒は祝杯や祝福の象徴とされることを説明しているにすぎず、その他原告の主張を裏付ける証拠はないとしてあっさり跳ね除けました。
国民感情については、
・これを使用することについて我が国の商標法上の保護を与えるときは、著名 な「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせることを許容する結果となるおそれがあるのから我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねない
・他にシャンパンを含む登録があることは関係ないし、
・(「登録前だから当然ではあるが)本願に異議・無効審判請求がされていないことによって左右されないから
原告の主張は採用できない。
とされました。
拒絶理由や審決では、
「使用するとフリーライド・ダイリューションが起きて感情を害する」
という話でした。
しかし高裁の判断では、
「使用することに商標法上の保護を与えると、フリーライド・ダイリューションを許容する結果となるおそれがあり、国同士の友好関係に影響を与えかねない」として、使用すること自体の問題というより、商標法上の保護を与えることが国同士の問題につながるという理論に変化しています。
お祝い云々は証拠不足として、シャンパン委員会が他の登録例に文句言ってないし特許庁が勝手に判断するなという主張に対しては、他の登録例の存在は関係ないという判断は疑問があります。
という話が、どういった案件を指しているのか証拠まで見ていないので分かりませんが、本物のシャンパンの提供の役務の商標まで彼らの異議・無効審判によって取消・無効に至っているのでしょうか。
そしてその際の理由は妥当なものなのでしょうか。
シャンパン委員会から妥当な文句が入ることが予想されるならともかく、他の登録例が平穏に維持されているなら何で特許庁が勝手に判断するのでしょうか。
ジムニーファン事件と正反対の判断ですね。
今後もシャンパンの行方は注視したいですが、情報提供を受けたわけでもないのに忖度が過ぎる特許庁や高裁だなと感じます。
文句があるなら言ってきますし、その妥当性も判断したうえで判断すべきではないでしょうか。