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社会通念上同一の商標に登録商標表示を付して良いか

登録商標を使用する際に®の表示や、登録商標第○○○○○○○号といった表示をすることがありますが、このような表示は登録商標ではない商標に行うと商標法74条1項1号の虚偽表示にあたり、商標法80条の罰則が科せられます。

(虚偽表示の罪)
第八十条 第七十四条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

商標法74条1項の虚偽表示の条文は以下の通りです。
ここで、「登録商標以外」という要件がありますので、「登録商標」とは原簿に記載された商標とどの程度の同一性が求められるのかと疑問がわきます。

(虚偽表示の禁止)
第七十四条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 登録商標以外の商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為

これについて、「登録商標」と書いてあるのだから登録商標と厳密に一致するものにしか登録商標表示をしてはいけないんだという説と、ある程度ゆとりを持たせて例えば社会通念上同一まで認めていいだろうという説が浮かびます。
どちらが正しいのでしょうか。今回はこれについて考えてみました。


社会通念上同一という文言は商標法には38条5項(損害の額の推定等)に以下の通り一度登場するだけなので、反対解釈して社会通念上同一という基準を使えるのは38条5項及び50条だけだと主張する方がいらっしゃいます。

(損害の額の推定等)
第三十八条商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した商品を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。
~略~
5商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。)の使用によるものであるときは、その商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。

しかし、社会通念上同一という概念はもともと裁判例にあった概念で、これを一部の規定に明文で取り込んだという立法経緯から考えれば、これを反対解釈して他の「登録商標」という文言は社会通念上同一を含まない厳密な同一性を求めるべきという主張には納得できません。


私の見解としては、商標権者による登録商標の使用にあたるのかという判断を行う場面では、同一の基準で判断すべきと考えています。
具体的には、不使用取消審判の場面で登録商標の使用と認めるような態様であれば、登録商標表示を付すことについても認めるべきではないでしょうか。

そもそも登録商標表示とは、73条に基づくもので、法律の要請で登録商標の使用に際して登録商標表示を付するように努めなければならないとされているものです。

(商標登録表示)
第七十三条 商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、経済産業省令で定めるところにより、指定商品若しくは指定商品の包装若しくは指定役務の提供の用に供する物に登録商標を付するとき、又は指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該指定役務の提供に係る物に登録商標を付するときは、その商標にその商標が登録商標である旨の表示(以下「商標登録表示」という。)を付するように努めなければならない。

不使用取消審判において登録商標の使用と認められるような使用について、商標権者は当然これを登録商標の使用にあたると考えるでしょうから73条の要請に従って登録商標表示を行うことが想定されます。
その結果「登録商標を使用した」と認められて不使用取消審判については免れるのと同時に(50条2項)、一方で「登録商標以外に登録商標表示をした」と認められて(74条1項1号)虚偽表示の罰則を受ける(80条)という状況は酷に過ぎると考えます。

このような状況を生まないためにはやはり73条・74条1項にいう登録商標には50条と同じく登録商標と社会通念上同一の商標を含むと解する必要があります。



この主張を考えた後で、新・注解 商標法を引いてみたところ、やはり社会通念上同一説をとられていました。

本条の「登録商標」とは、登録商標といわゆる物理的同一の商標に限らず、社会通念上同一と認められる商標を含むと解される。登録商標と社会通念上同一と認められる商標であるか、類似の商標であるかの境界線は必ずしも明瞭ではないが、この区別は自他商品や自他役務の識別標識である商標の本質に照らして、合目的的に解すべきであろう(パリ条約5条C(2)、商標50条1項)。

新・注解 商標法 小野昌延 三山峻司 P.1828

これを単純に見ますと、登録商標表示を付していい場面とは商標法50条1項の使用と認められる場面と同様に解するということでしょう。

いろいろ考えていたことが調べるとスッと出てきて、気分が晴れました。


とはいえ、虚偽表示は登録商標ではないものを登録商標であるかのように欺瞞する行為ですので、そのような意図が見えるような変化のさせ方をした使用については、厳しく判断する方向に傾くのではないかとも思います。
フォントや文字間隔の変形などで他人の著名商標に似せて使用するような不正使用系の使用や、きわめて特殊な書体や図形との結合によって識別力を得て登録した登録商標について識別力の低い部分のみを使用して登録商標表示をするようなケースでは厳しい判断になるかもしれません。

いずれにしても、登録商標との厳格な同一性が求められないことが分かりましたので、判断に迷うことが減ると思います。


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