Issue #08 | 教員の多忙化
地域・社会の課題を考える「Issue」。
今回のテーマは、「教員の多忙化」です。
2000年代にネット・スラングとして出てきた“ブラック企業”という言葉。
“ブラック”と言われるのは特定の企業に止まりません。
今回の対象領域である“公教育”でも、この言葉を目にする機会が増えてきました。
「教員の多忙化」の課題が顕在化してきたワケとは?
その実態について、今回もリディラバジャーナルの特集記事から考えてみました。
2018年、文部科学省の諮問機関「中央教育審議会」の特別部会にて、公立学校教員の平均時間外勤務が、小学校で59時間/月・中学校で81時間/月である旨が報告されます。
「過労死ライン*1」とされる80時間/月の時間外労働時間を上回る教員の労働環境。その背景として、社会のあり方・教員のメンタリティ・法律の3つがあるといわれます。
背景#01 | 社会のあり方
諸外国の多くでは、“知育”のみを学校の役割としていて、“徳育”は教会や家庭、“体育”は地域のスポーツクラブが担っているといいます。
対して、日本では、国語・算数といった“知育”、生徒指導を通じた“徳育”、部活動などの“体育”の『知・徳・体』が教員の業務とされています。
元々、教員が担う役割が広範であることに加えて、近年は、下記の要因から教員の側に対応を求められ、負荷が増えてきているといいます。
・核家族化や地域のつながりの希薄化に伴う地域の教育力の低下
・不登校や発達障害の子どもなどきめ細やかな対応が求められるケースの増加
・学習指導要領の改正に伴う指導内容(プログラミング、探究など)の増加
背景#02 | 教員のメンタリティ
教員という仕事の持つ“やりがい”も多忙化を招く背景といわれています。
目の前に子どもたちがいること。
自分が頑張れば頑張っただけ、子どもたちの成長や笑顔に繋がる。
このように、生徒のためなら…!という、
教員ならではのメンタリティもあるわけです。
背景#03 | 法律
1971年に制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(通称:給特法)」。
この法律では、『原則時間外勤務を命じず、時間外手当を支給しない代わりに、教職調整額として月給の4%を上乗せ支給する。』ことを定めています。
これは、教員という職業は、勤務時間の管理が難しいという特殊性を考慮して上乗せ支給という措置をという目的のもと制定されたものです。
したがって、教員の時間外勤務は、自主的・自発的なものとみなされ、
生徒のためなら…!という教員ならではのメンタリティも相まって多忙化に拍車をかけているというわけです。
【所見 -あり方を考える-】
教員の労働環境が社会のIssueとして注目される要因となった2016年の「教員勤務実態調査」。2022年8月より、6年ぶりに同調査が実施されています。教員の労働環境改善に向けた「学校の働き方改革」の通信簿となる本調査。2年後とみられている最終報告に注目が集まっています。
改めて、「教員の多忙化」の問題についてみていきます。
前段の整理では、「教員の多忙化」の3つの背景(社会のあり方・教員のメンタリティ・法律)を挙げました。
そして、「教員の多忙化」問題の解決方策について、リディラバジャーナルの特集記事では、『人を増やすか、仕事を減らすか』だと結論づけられていました。実際、2019年からの「学校の働き方改革」においても、外部人材の取り込みを通じた「人を増やす施策」やICTを活用した「仕事を減らす施策」が展開されています。
「教育」とは、何なのか?/どうあるべきか?
この問いに対するリディラバジャーナル安部編集長の
「子どもの可能性を最大化するためのもの」
という解は、まさしくその通りと思います。
そのためには、教員の先生方においては、生徒1人1人としっかり向き合う時間を設けられるようにしていくこと(①)。子どもたちには、多様な世界を知り・好奇心を育む機会を提供していくこと(②)。が求められるのではないかと考えます。
①については、授業のオンライン教材化。②については、文部科学省が推進しているコミュニティスクールの構想をしっかり根付かせていくことにそれぞれ可能性を感じています。
途上国の教育格差問題をICTの力で解決することを目指し活動をする認定NPO法人e-Education。東南アジア4カ国にて、オンライン教材を作成し、現地に届けるという活動を展開されています。
認定NPO法人e-Education web:https://eedu.jp/index.html
代表理事 三輪さんpitch:https://youtu.be/7fGdwBd_Yuk
同じ時間に全く別々な場所で同じことを何千何万人もの先生が教えることができる日本は恵まれていると思うと同時に、社会情勢が変化する中、これまでと同様に何千何万人もの先生がそれぞれ別に授業準備をして、全く同じことを教える必要性について疑問を持ちました。とびきりうまい教授法を持つ先生が1科目のオンライン教材を作り、現場の先生はオンライン教材を用いながら、1人1人の生徒の理解に応じたサポートをするという形。僻地教育や外国籍児童に対する教育にも意味あるアプローチなのではと考えます。
<参考文献>
▷リディラバジャーナル
・intro【教員の多忙化】学校現場のブラックな実態
https://journal.ridilover.jp/topics/d65e2ff4986a
・no.3「子どもたちのため」に頑張りすぎてしまう教員たち
https://journal.ridilover.jp/issues/8dfb304fbb88?t=221024lOINkarLHw
・no.4 複雑・多様・増大化する教員の仕事
https://journal.ridilover.jp/issues/a462a1ac2506?t=2210247SmBETetYr
・no.6 残業だけど残業じゃない?給特法とは何か
https://journal.ridilover.jp/issues/ae36e6ef3183?t=221024zkcU9aMZxB
▷文部科学省
・学校現場における業務改善のためのガイドライン(概要版)(平成27年度)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/05/1297093_3.pdf
・学校現場における業務改善のためのガイドライン(完全版)(平成27年度)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/05/1297093_4.pdf
・教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果について
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/09/27/1409224_001_4.pdf
・学校における働き方改革について(平成31年)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hatarakikata/index.htm
▷Yahoo!ニュース(2022/08/23)
始まった教員勤務実態調査、「働き方改革」にとどまらない「国の思惑」とは?
https://news.yahoo.co.jp/articles/ac9a0a3bf5bf5ef055346bef6021200bc9ab55a9
▷教育新聞(2022/08/04)
【独自】教員勤務実態調査を開始、給特法見直しへ第一歩 文科省
https://www.kyobun.co.jp/news/20220804_06/