くるり『thaw』が2020年に出されたということ。-『チェリーパイ』と『東京』-
こんにちは。大学生のこだまです。
昨晩0時ちょうどにサブスク解禁されたアルバム、thaw。
コロナの影響で、この先のライブがいくつか白紙になってしまい、それを補うべく、というより塗り替えるようにこのアルバムのリリースが発表されたのがちょうど1ヶ月前でした。
どの曲も、日の目を見るという意味では新曲ですが、今回解禁された11曲(来月発売のCDには4曲加わります)はそれぞれのタイミング・理由で過去どこかしらに置いてこられてきた(レコーディングされたものの、惜しくもアルバムに入らなかった)ものがある一定の意味をもって再構成され、突如2020年の我々の前に現れたものです。
そのなかでも、特に印象に残った『チェリーパイ』という曲とファーストシングルである『東京』の関係について考えてみました。
昨晩アップされた、岸田さんのセルフ・ライナーノーツに綴られた、曲ごとの経緯・解説も、見てない方はぜひ見てから。
1.『チェリーパイ』(#4)と『東京』
歌詞を書き出してみます。構造が似ている部分をA,A`,Bに分解して並べてみます。
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A 住み慣れた町を飛び出して
秘密の話きかせてよ
A`また内緒なんだこのことは
黙って食べてもバレやしない
B 甘い甘いチェリーパイをよく噛んで食う
煮えたぎった欲望をただ愛とは言い切って
刻んで切って捨てて切り刻んで
A`探して 私の下着どこ?
つまんないやつに盗まれた
B 甘い甘いチェリーパイをよく噛んで食う
煮えたぎった欲望をただ愛とは言い切って
刻んで切って捨てて切り刻んで
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ここで曲の半分。A→A`→B→A`→B→ と続いてきました。
ここから長いアウトロ。ここにも展開があります。
強い訴えがギターソロを中心に響きます。が、4分すぎになると、納得なのか放心なのか、Eの音が鳴り響き、どちらかというと一種の”解決”を感じます。そして最後に、なんと、『東京』の「パーパッパ パッパー…」で閉じられる。ここで、あの曲と同じ世界で起きていたことなのか?と思わされました。
今回の曲の”住み慣れた町を飛び出して”という歌詞に、『東京』の歌詞に感じるような、”京都の町にまだ少し思い残したことがあるんだけど”といった雰囲気を感じるような気がします。そのときの岸田さん個人の思いから生まれてきたのかなと。そこでこの曲と『東京』をつなげるための、アプローチとしてのあのメロディのような気がします。
当時のレコーディング時にこの構成だったのか、それともここ1ヶ月のマスタリング期にされたものだったのかわかりませんが、初期のくるりに見え隠れする東京と京都の関係が、この曲にもあるように思うんです。そうそう、くるりと東京と京都の関係について、今後ちゃんと文章を書いてみようと思います。
2.意図せず時間が置かれたことで。
アルバムの製作期に生まれたけど結果的に日の目を浴びなかったわけじゃないですか。時間を置いて、今回偶然”解凍”されたわけじゃないですか。
これまでのアルバム、そのとき時々の”一番生の,新しいもの”が届けられてきましたが、この『thaw』はそのコンセプトとは少し離れています。
時間を置こうと決めたわけでもないのだけど、結果的に時間が経ってしまったものが(ライナーノーツの文章があることによってとも言えますが、)その曲が作られた当時の、メンバーの思考や個性を丁寧に説明してくれる貴重な証拠になっている と言えると思います。
それは聴く私たちも、それぞれの自分の生活にくるりの曲を重ね合わせて曲の世界観に入り込んだり、或いは自分の中に取り込んだりしてきました。
ベストアルバムというスタンスで集められたものではない。本来収録されていたかもしれないアルバムの”文脈”から離れてしまったものが偶然そろったという状況かもしれません。言い換えてみれば、それはある意味で、その一曲が生まれた背景に注目しやすくなったということなのかもしれません。
それは、先ほどYouTubeで岸田さんが言っていましたが、”なぜかこのアルバムにくるりらしさを感じる”というものに繋がることのような気がします。個人の内側にある感情を見ているのに、それが共有できてしまう。B面集として例に出された『僕の住んでいた街』というアルバムも、『図鑑』も『東京』も『坂道』も。内から必然的に湧き出てきたものという意味で、共通の感覚かもしれない。『チェリーパイ』にも、そういう温度感があったように思います。
書きたいことはいっぱいありますが、今日はこの『チェリーパイ』と、今このアルバムが公開されたことがどういう副産物を生み出したのかについて考えてみました。
また続きを書こうと思います。
ありがとうございました。