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不器用な先生 1029

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 このみや栗林君との話は一時間以上は続いていたのだろう。一段落したところで時間を確認したら午後四時の半ばに近かった。
 このみが笑いながら言った。
「そろそろ奥様に連絡しないと、心配されるかもしれませんね」
 彩と環には、五時までには帰宅できるだろうと言って出てきたが、約束をたがえることが当然になってしまった。

 彩に連絡をとると笑いながら、こんな返事が返ってきた。
「学生たちと話してたのなら、仕方ないよね。環が美味しい夕飯を作って待ってるって言ってるよ!」
 このやりとりを傍で聞いてた栗林君が少し目を丸くしていた。ぼくのことを恐妻家とでも思っているのではないだろうか。そうでないことは、このみが説明してくれればいいのだが、いまは期待することもできなかった。

 家に帰り着いたのは六時を少し過ぎたところだった。
「学務課の話はうまく調整ついたみたいね。信ちゃんが申し出た仕事なんかも、する必要もないらしいよ!」
 すでに薫から彩に連絡が行ってようでこの言葉となったのだろうか、後半の意味がよく分からなかった。

 夕飯のなかで聞いたのは、薫から彩へのメールの内容だった。これはぼくにもCCが送られているらしかった。

 彩が薫からの連絡内容として話してくれたのは、学務課の資料のデータベース化のことだった。彩も昨年の春まで学務課に勤務していたから、これについてはよく知っていることなのだった。
 けれども学務課長はこれについてはまったく関知しようとはしなかったらしい。
「だからデータの関連付けなんて、外部参照って機能で簡単にできるようにでなってるんだよ」
 彩はそう言って笑ったが、ぼくにはその意味がよくは判らなかった。

 けれども、今後の心配が軽減したことだけは確かなようだった。
 学務課を出るときに見た薫の微笑には、こんな意味もあったのだろう。

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