不器用な先生 936
朝食の際には、彩が環に笑いながら話していた。
「五時半くらいだったと思う、信ちゃんが洗面に行ったのは… いつものことだから気にもしなかったけど、しばらくして部屋からうなり声が聴こえてきたんだもの」
「それって、六時半くらいのことじゃない! わたしにも聴こえていた。
これはぜったいに書いておく
って採れたけど、本当はどうだったのかしら」
「それで当たりよ。正確には、
これは現代人のためにも絶対に書いておく
だったと思う」
環がぼくを見つめながら聞いてきた。
「その現代人って、わたしも含まれるの?」
ぼくは確信をもって答えた。
「そうだよ! 今朝がた書いていたところは、いつかは環にも読んでほしいって思ってる」
それから環は彩に向って話していた。
「パパの文章って、かなり前から読まないと意味が判らないって幸太郎が言ってるけど?」
「それは、当たってる。信ちゃんんの学界論文を以前に読んだことがあった。前提と結論の間がけっこう離れているんだもの。でも懸命に読めば、その中間が重要なことも判ったけど」
「それからも、ママは読んだことがあるの?」
「一度で疲れたから、その後はぜんぜん読んでない! ああ『けんちゃん…』は別だけど」
「そうだよね。学界論文も『けんちゃん…』みたいな書き方をすればいいのに」
ぼくとっては、超訳も『けんちゃん…』も大差はないのだが…