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母と息子 226『魅惑の魂』第3巻 第3部 第26回
「それは死を征服した人の祖母の名前ですわ」
「でもけっきょくは、彼は死にました」
「けれども三日目に復活しました」
「それを信じることができるのですか?」
アネットは驚いた。しばらく言葉が出てこなかった。
「わたしが、それを信じたことはなかった、以前なら…」
「それなら、今は?」
「分かりません… それはわたしを射抜いて行ってしまいました」
ジェルマンは眼の前の女に不思議なものを感じ始めていた。(待ってはいないはずの謎の客に訪ねられる)気妙にも観える女を見つめていた。彼女はベッド近くの低い椅子に座って、ひれ伏すかのように額をシーツに押し当てていた。彼は彼女の金髪の髪の上にそっと手を置いた。彼女は顔をあげた。そこには驚きの表情が観えはしたが彼女は落ち着いていた。低い声でジェルマンが訊ねた。
「いまではあなたは、それを信じているんですね?」
彼女がいった。
「何のことですか?」
それはアネットの誠実な言葉だった。彼女はもうわからなかった。彼女は言葉を続けた。
「わたしが行動しなければならないって、気持ちは変わりません。多くを助け、そして愛さなければならないってこと、それを信じています」
「よかった」とジェルマンが言った。
「ぼくがらあなたに来ていただくのを願ったのは、あなたがそうした考えを持っている人だと思えたからなんです。でも最初からこれを、あなたに言いたくはなかったんです。まずあなたに会いたかったし、あなたのことを知りたかったんです。そして今、ぼくには見えました。もうこれでぼく以外のこと、ぼくを偽ったようなことを話すのは、もうこれ以上は不要です! 皮肉な偽装をしていたことを、許してください! ぼくのドアを開けてしまいます。アン姉ん、さあ入ってください!」