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夏 第284回 『魅惑の魂』第2巻第3部第4回

 アネットは招かれた晩餐の準備をしていた。その夜はソランジュが熱狂的に話していた評判のヴィラール医師も、若い妻とともにムートン・シュヴァリエ家に招かれていた。アネットは、そんな人たちに逢い会話することが嫌だった… 「もし行かなかったらどうなるかしら…」断りの連絡をすることもできたはずだった。だがマルクのことを考えてしまった。いつも母親と二人だけの生活をしている彼が、少し退屈気味にしているのが気になっていた。マルクは口実がどんなものであっても、外出できることを喜んでいた。アネットは彼からこの気晴しの機会を奪いたくはなかった。そして出かけることを躊躇ためらっている自分が愚につかないことを考えてるようにも思えてもきた… 「なにを。心配しているのかしら?」 …それは悪い予感のようにも思えた… 馬鹿なこと! 彼女の中に住む合理主義の精神は、それを無視するかのように、彼女の肩をそびやかさせた。彼女は着替えを済ませ、子どもの腕をとってソランジュの家に向かった。
 彼女の本能はすでに報復していた。予感が現実になることは、よくあることだった。予感とは、現実の何を恐れる予知でもあった。だからそれを漏らしたとしたとしても、魔術使い予告とは別のものだった。言葉の遊びをすれば、地下流透視者といったほうが、いいのかもしれない。地下の流れに近づくと、震源からの戦慄を、知ることもある。
*ここは、魔術使い(sorcier)を、地下流透視者(sourcier)に置き換えて、アネットの心境を語っていると観るべきだろうか?
 
アネットは居間の入口で、その予知が現実になったように感じていた。彼女は眉をひそめて中に入ったが、入った瞬間に安心することができた。ソランジュがフィリップ・ヴィラールを彼女に紹介するより前に、彼の眼に気づいたからだ。それは彼女を批判する眼だった。彼は彼女に同情を持っていない、それを感じることで彼女は安堵を得たのだった。

つづく

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