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夏 第310回 『魅惑の魂』第2巻第3部第30回

「それは忘れてしまいたいことですが… あなた会った今なら話すことで気持ちが落ち着くかもしれません。問題はこのパリには病気の発生源になっている場所があることなんです。その一画には不衛生な家々が立ち並ぶ場所で、不潔で有名だったアンリ王以後は、そこで癌や結核が蔓延している所です。過去二十年間の調査で、病気の八十パーセント以上が、そこが原因となっていることが明らかになっています。ぼくはこの問題を保健委員会に持ち込んで、収用と取り壊しという抜本的な措置を要求しました。委員会の合意を得て、報告書を書くようにと言われました。報告書が完成して、委員会に行ってたところが、結果が逆さまになっていることをと知らされました… たしかにそこで多くが死んだかもしれないが、家が原因とは言えないのでないか、って。冗談じゃない! 報告書をよくよく読めば、そんなことは解るだろう。ところが、彼らは証明書らしきものをぼくに見せるのです。ある者は確認の前に埋葬許可が下りていたとか、またある者はもともと腫瘍があってそれが死んだ原因だと、その類を見せれてのです。それら明らかに、死者の家族が土地の所有者に買収されて書かされたと疑われるものばかりなのです。そうして、こんな意見まで出てくる始末なんです。古い家が新しい家よりも健康に悪いというのは間違っている、自分自身の例を挙げて古い家は広くて換気が良いのだ、って言うんです。どう考えても家を壊すことに反対している、そうとしか思えないじゃないですか。

つづく

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