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母と息子 223『魅惑の魂』第3巻 第3部 第23回

承前

「そして羊の群れが、あなたに続いたんですね?」
「≪パニュルジュの≫たちですよ」

*『ガルガンチュアとパンタグリュエル』に登場する荒唐無稽な話を指している。また1970年前後にフレデリック・ジェフスキーがこの話をにヒントを得て創った楽曲も知られている。

「ぼくたちの牧場では、それは無理な話ですね」
「そんなことないって、思うんだけど?」
「もしかしたらあなたの牧場から出てくるんじゃないのかな。アネットの、あなたの子羊なら?」 
「わたしの子ども! そんなこと考えたくない! 神様!… そんなこと考えさせないで!」
「お分かりみたいですね! あなたは彼にはけっしてそれを勧めないんでしょうね」
「あの子も… わたしも… 早く戦争がなくなってほしいだけ!」
「主よ、わたしたちに恵みを! けれどもミサを唱えられのはぼくたちじゃない。ぼくたちはそれに答えることだけのことしかできません。血まみれのシオニズムの儀式を求める人がまだ大勢います。だから戦争がまだ終わることは考えられません。けっきょくぼくたちは捕まってしまうんです」
「わたしが捕えられてもしかたないかもしれません、でもあの子はいけないんです、けっして!」
「あなたはフランス、ドイツ、そして永遠の人類ために慈しみ深い母親たちの知恵を学ばれるのでしょうね。彼女たちはドロローの足元に身を委ねていますから…」

*ヴィア・ドロローサ(ラテン語:Via Dolorosa(苦難の道)イエス・キリストは処刑されるためにゴルゴダの丘まで十字架を背負って歩いた。その途中の道の名前を新約聖書から推定して一般にヴィア・ドロローサと呼んでいて、苦難に忍従するときの慣用句になっている。

つづく

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