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夏 第56回 ロランの『魅惑の魂』から
彼は、アネットを子供の頃から知っていて、彼女の問題のことあるごとに、とても真面目に対応してくれた。彼女の両親の死後は、その大半を彼女が彼に委ねことを当然だと受け取った。正確性を求める職業に忠実に従って、彼は細心の注意を払い彼女に状況を報告していた。そうして彼は彼女の同意なしには何もしようとはしなかた。だがアネットにとって、それは面倒なものだった。それを回避するために、ある種の要件については特別な委任状を彼に与えて、アネットは概要の報告だけを聞くようにした(ほとんど聞いてもいなかった)。 その後、アネットがパリを不在にし行先も知らせないことも多くなったから、グルニェは彼女の同意を受けて相談することもなく、彼女が最善の利益を得るような行動することなった。その結果は、うまくいっていた。公証人がすべてを処理を行って、アネットの所得を回収して、必要に応じて彼女に金を渡していた。それが問題なく続いていたから、彼は現状を整理して、すべての要件についての委任に署名させることを考え始めだした… 水は橋の下を通過した… それからアネットはグルニェとは一年以上が逢わなかったが、彼は各四半期の初めに、約束した金額を期限通りに渡していた。パリの社交界との縁がなくなって一人暮らしをしている上に新聞も読まなかったから、彼女が事件のことを知ったのは、かなり時間が経ってからだった。老人グルニェはあまりにも巧妙なことを考えていた。個人的な利益を求める気はなかったが、株投機に大きな関心を持ちだしていた。顧客の資金を有効に活用する目的で、危険な企業に投じて失敗した。それを挽回するためにさらに投じたが、結局は沈没してしまった。彼はアネットに何も断らず、現金と家財を処分しただけでなく、委任状の柔軟な文言を悪用して、ブローニュとブルゴーニュにある家屋も抵当に入れていた。すべてを失ったときに彼は逃亡してしまったが、自身の愚かさに嘲笑されている気分に襲われた。それはおそらく彼にとっては不名誉よりもさらに辛いものだったろう。
*オリジナルは、L'eau passa sous les ponts 「取り返しができない」、もしくは「もう過ぎ去ってしまって、どうにもできない」と言った意味で使われている。