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夏 第143回 ロランの『魅惑の魂』から
彼女は自分の言葉が生みだした悲しみを観ていた。それは最初からわかっていたが、彼女はいまさらように悲しかった。しかし、それは彼に与えなければならないものだった。二人がいっしょに生活をしていくには、互いが相手の過失さえも自分のものとして受けとらなければならなかった。だが彼女は、彼のなかでの葛藤については、まったく気づいてはいなかった。もし気づいても、彼女は愛の勝利を信じていたのではないだろうか。
「かわいそうなジュリアン」と彼女は言った。「ごめんなさい。わたしも苦しみを抱えています… あなたはわたしのことを、もっと良く思われてたんでしょうね。わたしをかなり高いところに置いてたんでしょう、あなたの中で… わたしは女です。弱い女です… でも、間違ったことがあったかもしれませんが、私自身を間違えたことは少しもありません。偽ったことはありません。私はいつも…」
「そうですよ」と彼は慌てたように言った、「間違いないですね? 彼があなたを裏切ったんでしょうね?」
「だれのこと?」アネットは訊ねた。
「その最低なやつのことです… ごめんなさい!… ……あなたを捨てたこの男ことです…」
「いいえ、彼を責めないでください!」 彼女が言った。「罪を造ったのは、わたしなんですから」