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重心を下げ、春を待つ
月日が経つのはあっという間で、ついに誕生日を迎えた。
この一年は特別だった。初めての転職、初めてのひとり暮らし、初めての海外勤務。色んな初めてを経験して、たくさん試行錯誤をした。どんな誕生日を迎えようかウキウキしていて、初めてのひとり旅の予定も立てていた。
が、やはり計画は変化に追いつけないものだ。12月末から体調不良に悩み、この1カ月、良くなったかと思えば症状をぶり返す日々が続いていた。
幸運にも、少しずつ回復の兆しが見えてきており、さらに今日は晴れていて風が気持ちがいい。久しぶりの心穏やかなこの時間に、これまでの失敗や恥から得た学びと、新しい一年に向けての期待を書き記していきたいと思う。
ようやく海外で働くことの難しさを知る
2024年を振り返れば、色々と紆余曲折はあったが、11月ごろまではかなり順調に仕事で成果をあげてきた。毎月のように何かしら自身でプロジェクトを担当し、周りの協力も得ながら101点以上を出してきたように思う。
しかし、それは今まで自分が持っていた強みを活かせる機会であったからだった。
シンガポールにいるものの、本社の日本側との連携が求められるため、自分の母語である日本語を使い、自分と似た文化背景を持つ日本人の同僚と仕事することが出来ていた。
もちろん外国籍の同僚(”ローカル”)と仕事を進めるものの、意思決定のタイミングではやはり自分が得意とする日本語が登場したため、思ったよりすんなりと新しい環境に適応できたのは幸いだった。
しかし、12月になると少しずつ状況が変わってきた。新しく学ぶことが増え、一つ一つの難易度が上がってきた。
そもそも分からない
例えば、一番頭を悩ませている案件では、自分以外は全てエンジニア出身 or 現エンジニアという状況で、日本語でも分からない概念・仕組みを英語で聞いている。
きっと、前職でプロダクト開発に携わっていた経験を買ってくれたのだと思うのだが、過去は開発チームに「餅は餅屋」と任せっきりで、システムの中身の設計にまでは携わったことが無かった。
オンライン会議中に生成されていく字幕を必死に読んでも、何を言っているのか見当もつかない。周りも、「どうせこの人に質問したって意味がない(答えがない)」と分かっているので、自分が会議中に意見を求められることはほとんどない。
もちろん意見をするどころか、理解すらできていない。まるで透明人間のような自分に、少しずつ無能感を覚えていくのを実感した。
コミュニケーションの欠如
また、完全に英語でしかコミュニケーションできないメンバー構成の中で、「気づいたら」プロジェクトオーナーのような立ち位置になっていた案件もあった。
これ自体が「明確なオーナーシップの不在」という問題を抱えており、その結果、上司の期待に対してアウトプットが見合わず、社会人2年目以来となる厳しい叱責を受けるきっかけとなった。
また、その中で、同僚のアウトプットにフィードバックをしようとした際、直接自分が書いた日本語の文章を機械翻訳し、チャットで送ったのはあまりにも考えが至らず、痛い失敗だった。
人によってはストレートで冷たく聞こえる文章を、相手の心がどう受け止めるのか、なぜ1秒たりとも考えなかったのか。なぜ、その後でも口頭でニュアンスを補足して挽回しようとしなかったのか。
コミュニケーションのひと手間を惜しんだ結果として、自分の行動の浅はかさのツケを払うことになり、同僚との関係性が硬直化し、のちのプロジェクトの進行にも影響をきたした。
すぐに答えを出そうと焦る
個別の案件を超えて、「愚直」「猪突猛進」と呼ばれる自分の性格が裏目に出ることもたびたびあった。
どこの職場にも不文律や経験知があるが、新しく来た自分にはまだその領域を把握しきれていない。それどころか、オフィスの設備の使い方さえも良く分かっていない。
解決策を見つけようとオフィスを(物理的に)走り回っていた時、「大人なんだから落ち着いて。焦って可愛いのは小学生まで」と上司に厳しく言われた時は、だいぶ落ち込んだものだった。
しかし、上司の言葉には真理があった。
常に、上手くいかない場合のPlan Bを頭に入れて動き、ダメならダメで次の一手を探す。その冷静沈着さが、大きな金額と様々な利害関係者を動かすこの職場では特に求められる。
徐々に頭では理解できてきたものの、同僚の前で言われた厳しい言葉は、その瞬間、氷柱のような冷たさと鋭さで心に突き刺さり、しばらく悶々としていた。結果的に問題は解決したので、そのために奔走していた自分の努力を否定されたようにも感じた。
「病は気から」とも言うので、少しずつ心労が蓄積したのかもしれない。もともと強くない身体から先に悲鳴を上げ、風邪を何度も引くようになり、今に至っている。
人生、何事もバランス
自分の好きな言葉の一つに、中国語の「否極泰来」という言葉がある。
「悪い状況(否)が極限に達すれば(極)やがて良いこと(泰)が訪れる(来)」 という意味で、不運な時期の自分を強く支えてくれる。
今の自分においても、不運が底をいったんつき、少しずつ状況が好転してきているように感じている。例えば、さきほどの例に沿っていくつか挙げてみたい。
思わぬタイミングでの助け
エンジニア集団に囲まれ、専門知識が足りない自分は、まるで透明人間のような存在だった。このまま完全に埋もれてしまう前に何とかしようともがいていた矢先、ちょうどその分野の執筆者から「初心者向けの本を書いたので、読んでレビューしてくれないか」と連絡が届いた。
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過去にイベントで出会い、LinkedInで連絡先を交換しただけの仲にも関わらず、自分を思い出してくれたことに心から感謝しつつ、自分がまさに必要としていたこのタイミングでの連絡に驚いた。どうやら、まだ自分はまだ消える運命ではなさそうだ。
コーチングとの出会い
自分の言葉(フィードバック)を、機械翻訳して安易にチャットで送り付けた結果、同僚とのコミュニケーションに失敗した自分は、問題の根っこを大きく2つに分けた。
①言語(自分の言いたいことを、自分の言葉でしっかりと伝える)
②コミュニケーションの在り方(自分と相手の相互作用を理解する)
その中で、自分の中で新しい世界を開いたのが②のコミュニケーションに関する学習だった。果たして自分はどうフィードバックしたら良かったのか、と色々本を読んでいた中で、特にこの一冊からは目から鱗が落ちるような発見が沢山あった。
自分のコミュニケーション(特に傾聴)の在り方が、「これは自分にとってどんな意味があるのか?何が解決できるのか?」と無意識に自分へ目的が向いているものであると気づかされるいいきっかけになった。
どんな人にも、「それを尊重できなければ死ぬに等しいと思えるほど」の大切な価値観がある。自分や、目の前の相手は、いったいどんな価値観を持っていて、会話の行間にはどんな思いが隠れているのか。
今の自分にはすぐに会得できる領域ではないが、まずはコミュニケーションの最中に浮かぶ雑念を抑え、相手が何を伝えようとしているのかを聴き取ることに集中するようチャレンジを始めている。(そのおかげかは分からないが、冷戦状態だった同僚との関係も少しずつ回復してきている。)
ちなみに、①の言語については、仕事全般において、自分の発する言葉が英語として意味を成すだけでなく、自分の意見を効果的に伝える武器として磨く必要があると痛感していた。
英語の流暢さも重要だが、それとは関係なく自信をもって堂々と話し、明瞭で説得力のある響きを持たせたい。
そんな気持ちから、日々の会議で英会話を鍛える機会に恵まれているのもあり、発声・発音を矯正するオンラインスクールに通うことを決めた。安くはない投資だが、きっといずれ大きなリターンになることを信じている。
重心を下げて、春を待つ
年を重ねたからと言って、何か劇的に変わるわけではない。それでも振り返ってみると、少しずつ痛みを伴いながら経験していく中で、変化は確かに起きているのだと感じる。
これまでの自分は、目の前の問いに対し、すぐに答えを出そうとするあまり、視野が狭いまま突進しがちだった。何かトラブルがあるとすぐに焦りが表情に出ているようでは、浮足立つ「小学生」の自分から成長できない。
今まで手が届かなかった海外勤務を実現できた今、次に自分が必要なのはゆっくりと重心を下げ、揺るがない心を作っていくことだと確信している。
今の自分が向き合うべき課題は、まさにこの本のコンセプトである「ネガティブ・ケイパビリティ」がよく言い表しているように思う。
ネガティブ・ケイパビリティとは、どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐え、諦めたり思考停止したりしてラクになることを選ばず、あえて、わからなさの中に留まり続ける、「持ちこたえる能力」
障壁や沈黙を恐れず、じっと堪えて、次の手がないかを考える。
過去の失敗や恥、未来の成長への焦りもいったん置いておき、今この瞬間に集中する。
劣勢にいると感じるならば、周りから謙虚に学び、生き延びる地を模索し、芽が出る春を待つ。
ぐっと堪えて、自分の呼吸を落ち着かせる。
きっとその先には、新しい展開がある。
そう信じて、また楽しんで一日一日を過ごしていきたい。
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ここまで読んでくれてありがとうございました。
また明日からも頑張りましょうね。
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