きもの(KIMONO)特別展から考える着物文化の未来
トーハクで開催されていた着物展
東京国立博物館で開催されていた特別展「きもの KIMONO」に行ってきました。
最近はほとんど見かけなくなりましたが、一昔前までは、子供の入学式に着物姿で参列するお母さんがそれなりにいました。
これをどのように捉えるかは様々ですが、何百年か日本の服として日常にあった着物を、今一度考え直す機会として、今回のきもの展を振り返ってみたいと思います。
展示品には、織田信長の独特な陣羽織、鮮やかな技巧やデザインの友禅染、京都島原の太夫が身に付けていたとされるピンク色の蝶の髪飾り、岡本太郎さんの躍動的なデザインの着物、YOSHIKIさんのモダンなデザインの着物など、見所は幾つもありました。
背中に大きな揚羽蝶が描かれた織田信長の陣羽織
まず、鎧である具足の上に羽織る陣羽織で、織田信長が着用していたものは、独特の空気が漂っていました。
襟が立ち、背中の大きな揚羽蝶に、いくつもの山鳥の黒羽根。
この「黒鳥毛揚羽蝶模様(くろとりげ あげはちょうもよう)」の陣羽織に、織田信長の織田信長たるゆえんを見たような気がしました。
高貴な色である紫が効果的に使われていた友禅染
今回の展示作品を観た限りですが、友禅染では紫が効果的に使われてきた印象を受けました。
日本において紫色は、聖徳太子の制定した冠位十二階において最上位に値する色であり、また源氏物語の作中にも、紫の上や藤壺といった紫に関する理想的な女性が登場するように、日本では高貴な色として捉えられ、それが着物にも反映してきたかのような印象を受けました。
また、ばくだんと呼ばれる紫色の大きな絞りも独特でした。
最上位の遊女・太夫の大きな蝶の髪飾り
遊郭の街・京都島原の太夫であった松扇が所持していたとされる、ピンク色の蝶々の髪飾りも印象的でした。
着物に付随するものとして展示されていましたが、この大きな髪飾りは現代にも通じるポップな作品であり、幅広い芸事を身に付け、また高級な身なりで固めた最上位の遊女・太夫からすると意外な感じもしましたが、そのピンク色の大きな蝶の髪飾りに、遊郭の閉じ込められた世界に生きる女性の、ある種の力強さや反逆の精神を見ました。
岡本太郎さんデザインの躍動する芸術的なラインの着物
岡本太郎さんがデザインした着物は、躍動する芸術的なラインが印象的でした。
もし素人のあなたに逞しい精神があれば、線一本でも岡本太郎をしのぐことができる、といった事を著書で確か太郎さんは述べていましたが、このことをまざまざと見せつけれられた動的な線であり、芸術家・岡本太郎の、これまた岡本太郎であるゆえんをそのデザインに見ました。
私が過去接してきた岡本太郎さんの作品の中で、一番印象に残った作品かもしれません。
YOSHIKIさんデザインのモダンなドレス風の着物
X JAPANのYOSHIKIさんがデザインしたモダンなドレス風の着物も、着物を過去の文化として捉えるのではなく、現代に活かしてくという点において参考にしていくべきだと思います。
首や胸元を飾るネックレスで、蝶や蜘蛛のデザインも独特でした。
展示会場には、凜とした着物姿の女性が何人もいらっしゃいましたが、着物を一部の人達が楽しむ過去の産物として扱うのではなく、YOSHIKIさんが現代風にアレンジしたように、今の私たちが生活する日常に活かしていくこともまた一つの方法であり、西陣織の老舗である京都・細尾の細尾真孝さんも、イベントで語っておられましたが、伝統とのコントラストをいかにつけるか、またいかに伝統を壊していくかも、今後新たな着物文化を創造していく上でも、日本の服飾産業を語る上でも、大事になってくるのではないかと思います。
着付けの難しい着物や振袖
男性もそうだと思われますが、特に女性が着物を身に付けなくなったのは、着付け教室というものが存在するぐらいですから、着付けの難しさが一つの要因としてあり、また高価であることも一つの要因として存在すると思われます。
他にも、小袖(こそで)・打掛(うちかけ)・振袖(ふりそで)・羽織(はおり)・浴衣(ゆかた)・甚平(じんべい)・袴(はかま)といった、着物や和服に関する多くの言葉やしきたりが、敷居を高くしているのかもしれません。
また、女性が成人式に一度だけ振袖を着て、後はずっとタンスの中にしまっておくという風潮についても、何らかの違う活かし方を考えていくべきなのかもしれません。
着物文化の未来
着物を、一部の人の嗜みから変化させていくのであれば、着物文化を、今の時代に再興していくのであれば、伝統を新たな視点で捉え直し、変革していく必要があるでしょう。
それは、坂本龍馬が、草履や雪駄ではなくブーツを履いたように、着物と何かを組み合わせる形になるのか、着物や反物そのものを日常生活に合わせて変えていくのか、伝統の変革は様々な形が考えられるはずです。
伝統を伝統のスタイルのまま楽しむことも一つの方法ですが、その伝統自体も、当初世間に登場した形からは変わっているはずです。
今回の大規模な着物展を通して、日本人が何百年と身にまとい、また身を飾り、そして産業として接してきた着物を、今一度捉え直す機会として考えてみたいと思います。