ボリュームを一つ上げる ~ハルカミライ~
「とあるロックバンドのMVを見て感化されカメラを始めた」と言ったら、もしかしたら変な人だと笑われてしまうでしょうか?
深く考えずに面白いと思うことに貪欲に手を伸ばして生きてきたこれまでの人生。
今思えばその中の一つがのカメラでした。
本来カメラを始める動機っていうのは。有名な写真家さんに感化されたとか、カメラってなんかかっこいいとかがほとんどだと思います。近年はiPhoneのカメラ機能が本当に素晴らしいので、スマホで撮るのが楽しくて本格的なカメラをやってみたくなったという人が増えたのかなというのもちょっとあるかも。
でも僕が始めた理由はロックバンドのMV。
正しく言えばMVに出てくる写真を見て始めたというのが正しいかもしれません。
その曲はハルカミライの「宇宙飛行士」という曲です。
このバンドに出会ったのは3年ちょいくらい前だったと思います。いつも通りyoutubeのおすすめ欄を見漁っていた時。ふと目に止まったのがこのMVです。
ショートドラマ形式のMVで、とある高台の公園で出会う男女二人がカメラを通して特別な時間を共に過ごすという素敵な物語なのですが、映像とは裏腹に歌詞がなんだかとても切ない。
「届かない距離」のようなものを感じさせる歌詞の描写がとても多くて。え、どういう歌なの?と、困惑。
あえて曲の歌詞について細かい説明をしないのはロックバンドの美学の一つ。
どれだけ調べてもこの曲の本当の意味がしっかりと載ってるサイトは見当たりませんでした。
き、気になる、、。
このバンドの虜になってしまった。音楽オタクなのでこうなると止められません。
そこから雲を掴むような作業が始まります。一生懸命いろんなサイトを調べてチグハグな情報を繋いでいく。
するとこの曲はもう一つ繋がっている歌があってその曲と合わせて聴いた時に初めてしっかりと物語として成立するということがわかった。
その曲がハルカミライのアストロビスタという曲です。
この曲も同じ2人についての事を書いた曲らしくて、違いは「視点」なんだとか。カメラをきっかけに出会った2人の恋愛描写を二つの視点から歌っているそうです。
早速聞こう!
と意気揚々に聴いたはいいものの、
僕は絶句しました。同時に涙があふれてきました。
二つの曲と映像を聴いて分かったことは、この曲は別れの曲だということ。写真が好きな彼が亡くなってしまう物語なんだそうです。
「宇宙飛行士」では彼女を置いて行ってしまってごめんねという男性視点で書かれていて。
「アストロビスタ」では亡くなってしまった君のことを忘れないからねという女性視点で書かれています。
二つ聞いてようやく一個の物語になるというもので、それに気づいた時僕は涙が止まらなくなってしまいました。
そしてもうひとつびっくりした点があって、それぞれの歌の最後の1フレーズだけ視点が切り替わっているような気がしたんです。
宇宙飛行士「生まれ変わったら会いにいくよ、今度は私から。」
アストロビスタ「わかるのかい?ほんとに?ありがとね。」
そんな気がしませんか?
一曲でしっかり完結してる。でも二つ聞いた上で初めて物語として完成する。
音楽をずっと聞いてきた僕にとって初めての感覚。
なんだか切なく、そして温かいこの二つの歌が僕はもう大好きになってしまって。
「カメラいいな。やってみたい。」
となったわけです。
あの時は安直だったかなあと思っていたけど、今ではなんの後悔もありません。
結果として生活に切り離せないものになったわけですから。
今でもその時の名残があるせいか、MVで出てくる写真の雰囲気と自分が撮る写真の雰囲気がどこか似ていて。
少し暗めのシネマ風な写真。意識せずともそんなふうなレタッチになってしまったり。
きっと頭に焼き付いてる好きな写真のイメージが「宇宙飛行士」のMVに出てくる写真だからなんでしょうね。
結果として、写真が自分を構成する一つになったきっかけはこのハルカミライというロックバンドになった。
そんなことを思い出しながら仕事に向かう途中、宇宙飛行士がスマホから流れた。
僕はイヤホンのボリュームをひとつあげる。