「実況中継」と「驚く」

息子がまだ2歳になる前、札幌の地下街を肩車して歩いてると、左を指差して「ご!」と言い出した。そこには、出口を示す巨大な「5」の文字が。
「え?5が読めたん!?」と、私とYouMeさんは驚き。それに味をしめたのか、字を読むのも書くのも急速に覚えた。

息子が早くに字を読めるようになったのは「実況中継」が大きいように思う。
風呂桶に貼ってあるシールを見て「使用上のご注意、って書いてあるね」とか、道を歩いてると工事中で「立ち入り禁止、って書いてるね」、町を歩いて「〇〇屋、って書いてるね、ここで買おう」とか、目にしたのを実況中継。

実況中継は、実際には字を読むばかりでなく、目にしたものを全部口にしていた。「ニンジンはどこだろう?あ、ここにあったね」「牛乳はずっと向こうだね。お客さん多いね〜、ぶつからないようにちょっと待とう」などと、現在の状況をまさに実況中継のように言葉にして伝えていた。

そうこうする間に、どうやら赤ちゃんは「線の組み合わせには『音』が決まっているようだ」という「仮説」に気がついたらしい。中でも、数字は比較的よく見かけるし、実況中継でもやたら出てくるから、認識しやすかったのかもしれない。

字を書けるようになったのも確か2歳になる前。その過程が面白かった。紙に線をランダムに描いているうち、線の交差する部分で文字に見えるものが見つかり、「えっくす!」を発見、書き方を覚える、という過程をたどった。

Eは早くに書けたけど、Fが書けるようになるまでがちょっと面白かった。どうやら息子の頭の中では、「棒の右側に横棒が突き出ている」のは認識していたけど、何本出てるのかはイマイチはっきりしていなかったらしい。で、まるでクシのように横棒を何本も描いてるのをしばらく「えふ!」と呼んでた。

でもそのうち、「横棒の数は二本で、縦の線のてっぺんから伸びるのと、その下に一本書けばいい」ことに気がつき、Fを書けるようになった。
このように、息子は自分で乱雑に線を描いている中で、字に似ているものを発見、書き方もそこから少しずつ近づけていくというアプローチをとっていた。

その間、私は字を教えていない。読み方も書き方も。ただ日常生活で、目にするもの、耳に聞くものを全てことばにして「実況中継」していただけ。赤ちゃんが聞いているかどうかは別として、ひたすら言葉のシャワーを浴びせまくった。どうやら赤ちゃんは、言葉の雨を浴びて、仮説を勝手に紡いだらしい。

いわば、人工知能の学習法である「ビッグデータ」だ。人工知能では、大量のデータを与えることで、何らかの法則性を人工知能自らに発見させるという学習法をとる。私は、赤ちゃんも同じだろうと考え、起きてる間は実況中継しまくり、言葉の雨を降らせた。それが子どものビッグデータになったのかも。

知育おもちゃとかいろいろあるけど、日常の中で言葉にしまくり、言葉を浴びせまくることのほうが、言語能力は上がりやすいように思う。息子も娘も、言葉を大量に浴びすぎたせいか、言葉の話し始めはそんなに早くなかった(たぶん多すぎてチョイスできなかった)けど、話し出すと語彙数はグッと増えた。

3歳くらいには「ぼくの仮説はね」「実験してみよう」と言うようになっていた。子どもは、状況変化する中で言葉の雨を浴びると、「これはこういうシチュエーションで使うのか」という仮説を自動的に紡いでいく。親は、それをしやすいように実況中継する。それが言葉を発達させる簡単な方法だと思う。

そして、子どもに何らかの変化が起きた時に「驚く」こと。それまでできていなかったこと、知らなかったはずのことを発見したら、素直に驚きを表明し、伝えること。すると、子どもは「やった!親を自分の成長で驚かすことができた!」と嬉しくなるらしく、観察をさらに熱心に行うようになるようだ。

実況中継と驚くこと。この二つだけで、子どもの言語能力は非常に高まるように思う。親に語彙力がそんなになくても構わない。ともかく知っている言葉を紡いで聞かせる。それが、子どもの頭脳を大きく刺激させることになるように思う。

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