新型コロナが弱毒化しにくいメカニズムの仮説

病原体は通常、感染を繰り返していくうちに弱毒化していくと言われている。強毒過ぎて人間を殺してしまうと、人間もろとも共倒れしてしまい、次の人間に移る機会がなくなってしまうので、毒性を減らして殺さないようにし、次の人間に感染する機会を増やすように選択圧がかかるからだ。ところが。

昨日だか一昨日だか、報道ステーションに出た東大の研究者が、新型コロナは弱毒化しないかもしれない、と述べていた。
私も、そんな気がしている。なぜこのウイルスが弱毒化しにくいと考えられるのか。それは、感染力が強い時期と、重症化する時期にズレがあるためだ。

新型コロナが最も感染力を強める時期は、発症する直前直後だという。発症して7日後以降だと急速に感染力が低下するらしい。
このため、新型コロナは、感染した人が重症化するかどうかなどさっぱりわからない段階で、次から次へと感染を広げていく。そして、一定の確率で感染者を重症化に追い込む。

感染力を発揮する時期と、重症化する時期にズレがある。このため、「感染力」と「重症化へと追い込む毒性」(毒性)の二つが切り離されている。これは、毒性が一種の「中立進化」をしやすい構造になっているのではないか。

中立進化とは、その生物(ウイルスは生物と言い難いが)が生き残る上でどうでもよい遺伝子に変異が積み重なり、大いなる進化が起きる、というもの。変に選択圧がかからないので、どんどん変異が入っていく。
新型コロナの厄介なのは、毒性の部分が中立進化しやすいのでは、ということ。

毒性の部分に対抗できるのは、今のところ、ワクチンのみ。ワクチンはどうやら、多くの変異株に対しても重症化リスクを下げられるようだ。
ところが新型コロナの厄介なのは、このウイルスにとって、患者を重症化に追い込むステージのところは生存戦略上、関係のない時期であること。

感染した患者が重症化するかどうかお構いなしに、どんどん次の人間へと感染していく。ワクチンをうつ人間が増えても、ある程度ブレークスルー感染(ワクチン打った人でも感染すること)するので、ウイルス自体の生存戦略に、致命的なダメージはない。

新型コロナのこうした生存戦略に打撃を与えられるとしたら、どのポイントだろう?
「発症の直前直後に最も感染力が強い」という現象に、なんとか歯止めをかけることができたら、新型コロナに強い選択圧をかけられるのではないか。

発症前後に強い感染力を発揮するメカニズムは何だろう?専門家ではないので想像だが、感染が成立したわずかな数の細胞で、大量のウイルス粒子が作られるからではないか。つまり、細胞一個あたりの増殖量が大きい。このため、わずかな細胞しかやられてないのに、十分な数のウイルスができるのでは。

だとしたら、粘膜細胞でのウイルスの増殖を抑えることができたら、感染力を大幅に低減できることになる。
しかしそんな方法がみつかるかどうか。
粘膜で起きる免疫は、ワクチン注射で誘導する液性免疫のようなことができるのだろうか?

新型コロナに強い選択圧をかけるには、「毒性」ではなく「感染力」をターゲットにした方がよいように思う。ただ、ターゲットにしたとして、どんな方法があるかは、素人の私にはわからない。微生物の「選択圧」の研究者として、選択圧の観点から考えてみた。専門家の着想に何か役立てば幸い。

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