エネルギー消耗型農業の終焉

「エネルギー消耗型農業」をいつまで続けられるのか。日本の農業は1kcalの食べ物を得るのに2.79kcalの石油エネルギーを消耗している。これは日本だけでなく、先進国で機械農業をしているところはどこも似たような傾向。アメリカも、フランスも、オランダも。大量の石油を食料に変えてるようなもの。

石油が安価な時代には「石油を食料に変える」こともできた。しかしこれからはそうはいかない。石油を掘るのに要したエネルギーの何倍の石油が採れたか、という指標をEROIというが、これが昔は200倍だった。シェールオイルになると10倍を切ることも。3倍を切ったらエネルギーとして意味がない。

EROI=3に向かって、石油の採掘効率が悪化している。3を切ったらガソリンなどに加工する時のエネルギーも必要だから、エネルギーとしては赤字になってしまう。そうした状況にどんどん近づいている。石油があってもエネルギー的に赤字になる時代が近づいている。

しかし石油に代わるエネルギーが見当たらない。天然ガスは液化するのに超低温・超高圧にしなければならず、自動車で利用しやすいエネルギーとは言えない。水素も同様。タンクが大きくかさばり、しかも重くなる。

バイオ燃料は調べたところ、ブラジルのサトウキビ由来のバイオエタノール以外は軒並みエネルギー的に赤字。エネルギーを作るどころか、バイオ燃料を作れば作るほど石油を燃やさねばならない。アメリカのトウモロコシ由来バイオ燃料も赤字。ブラジルのマネは他国は難しい。

太陽電池でエネルギーを作り、バッテリーで動く電気自動車が実用化されている。乗用車くらいなら実用化できるようになったが、大型トラックや農業用機械(トラクター)などは難しいらしい。パワーのいるものだとバッテリーが大きく重くなりすぎてしまうらしい。コストもものすごく大きなものに。

電池に革命が起きればよいが、困難。電池は弱い結合エネルギー(イオン結合)で貯めるから、重さや体積が大きい割にエネルギーが貯められない(エネルギー密度が低い)。石油は強い結合(共有結合)で貯めるから、少量で高密度なエネルギーを貯めている。これに匹敵するエネルギーが見当たらない。

石油は安くて、コンパクトで、濃いエネルギー。こんな便利で優れた特徴を備えるエネルギーは他にない。私達の文明は、この石油に合わせて構築してきた。しかし石油は採れにくくなってきた。もっと使いにくい、能力の低いエネルギーにシフトする必要がある。

そんな社会を実現できるのか。石油どっぷりの日常に浸りながら、考え込んでしまう。
なお、なぜ電気自動車がこれほどに注目されるようになったかというと、エネルギー効率がエンジン車よりかなりよいから。同じエネルギーで7倍走れるらしい。それで急に注目されるように。

しかし問題は、バッテリーは石油タンクと比べ十数倍から四十倍くらいの重さになること。エネルギー密度が低いから。エネルギー効率がいくら良くても、バッテリーが重いのではその分効率が悪くなる。大型トラックなどのパワーのいるものの電化が難しいのはそのためらしい。

今の農業は、トラクターも大型化が進んでいる。しかしこれは石油を前提にした技術。もしバッテリーで動かそうとしたら、1時間もしないうちにバッテリー交換しなきゃいけないなどの問題が出て、かえって非効率になりかねない。しかも高額になる。

今の農業は、田舎で生産し、都会に運んで儲けるスタイル。しかし石油で動くトラックが規制されるようになったら、そうしたスタイルの商売が続けられるかどうか。大量輸送は難しくなるおそれがある。

石油減耗時代には、これまでの常識が通じなくなる。私達は石油エネルギーに依存できなくなった時代でも生きていけるのか?生きていくにはどうすればよいのか?石油エネルギーが使えるうちに必死に転換をはからねばならない。そうした時代の変わり目に来ているのは間違いなさそうだ。

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