経済を回すための注意点

経済に必要な要点って何だろう?4つある気がする。①労働力を確保すること、②働く人に十分な報酬があること、③それにより十分な消費(需要)を生むこと、④飽きさせないこと、の4つ。

日本は少子高齢化で労働力が不足気味。昔は高齢者は定年退職したら労働力から退場してもらっていたが、今は高齢者も労働に参加してもらわないと社会が回らない。労働力が不足すると、介護に人を回したら、工業や貿易に人を回せなくなる。日本はしばらく、食料を輸入せねば生きていけないのに。

非正規労働や派遣社員の形態が増え、十分な報酬が得られない仕事が増えた。報酬が十分でないために、消費が増えない。経済が低迷する大きな原因。

まずは経済を回すための基礎は、①労働力の確保、②報酬の確保、③消費の確保、の3つだと思う。しかしここまでなら共産主義も目指す。しかし共産主義はどうも低迷しがち。それはおそらく、上記の3つしか見なかったから。そこに4つ目の「飽きさせないこと」が重要になる。

人間はどうも、飽きる生き物。同じことを十年一日で続けてると飽きる。買い物に行っても、毎度同じものしか売ってないというのでは、飽きる。日常の中に幾分かの非日常が混ざらないと、飽きる。耐えられない人が多い。

戦後、共産主義が低迷し、ケインズ経済学を採用した資本主義国が成功したのは、この「飽きさせない」という点で、後者が圧倒的に優れていたためだと思う。常に目新しさを演出することで、消費を刺激するのに長けていたのは、後者だった。

マルクス経済学で欠落していたのは、この目新しさを求めること、人間は飽きる生き物だという分析ではないか、と思う。当時としては、まずみんなを食わせること自体が画期的で、飽きないなんていう甘っちょろいことを考えられなかったのは当然なのだけど。

偶然の一致だろうが、「あきない」(飽きない、商い)という読みが一致してるのは興味深い。飽きれば消費が低迷する。しかし飽きさせない商品が常に登場すれば、消費を刺激することができる。人間は生命維持に必要なものだけ買えれば満足するものではない。常に好奇心を刺激してほしい生き物。

子どもを見ているとよくわかる。ノーマルな絆創膏より、キャラクターものの絆創膏を貼ってもらいたがる。機能しかない筆箱より、カラフルなものがほしい。何かしら、「お?」と思わせてくれるものを好む。人間は飽きる生き物。好奇心を刺激してほしい生き物だと思う。

冷凍食品のメーカーの方から、面白い話を聞いたことがある。どうせ定番の商品が一番美味しくて、一番売れるのに、なぜ珍奇な、大概美味しくない新商品を乱発するのか?と聞かれたとき、「新商品を食べてみて、定番の美味しさを再確認してもらうためだよ」と仰って、膝を叩く思いだった。

定番が売れるからと言って、定番しか売らなかった場合、やはり飽きられるリスクがある。しかし珍奇な新商品を投入することで目新しさを演出し、食べてみて改めて定番商品の美味しさを再発見してもらう。ことで、定番商品の延命をはかることができるという。

珍奇なものが意外に好評だと、それが新たな定番商品に育つ可能性がある。こうしてイノベーションを確保することが可能。「飽きさせない」は、経済を進展させる上で大切な原動力。

ただ、戦後昭和の「飽きさせない」は、大量生産大量消費を生み出した。それにより、大量のゴミが発生した。それは同時に、資源とエネルギーのムダが発生していることも意味する。そこで平成は、ゴミの分別という面倒臭さを導入することで、資源とエネルギーのムダを減らすのにある程度成功した。

今後、経済を活性化させるための条件に、省資源・省エネルギーは絶対条件になってくる。さらに二酸化炭素排出が少ないことも。これらの条件を満たした、目新しさを演出する必要がある。目新しさはビジネスチャンス。制約は必ずしも経済の停滞を意味しない。制約に最適化するというのも目新しさ。

目新しさの演出では、ネットのサービスは容易。スマホの消費電力は必要だが、人々を何時間も楽しませながら、しかも省資源・省エネルギー。ネットの楽しみは、経済を活性化させる「目新しさ」の演出がとても容易なコンテンツ。

ただ現状、ネットサービスは「①労働力の確保」「②報酬の確保」が欠落しがち。なるべく人を雇わず、なるべく広告料収入を既存マスコミから奪い、報酬はごく少人数にだけ高額に渡す。これでは高額商品の経済だけ活性化して、一般的な商品経済はむしろ低迷する。結果、「③消費の確保」も低迷。

経済を回すには、ネット企業に雇用してもらう。必要がある。ネット企業が進出したことで、非ネット企業は雇用を抱えていられないほど弱り、ネット企業はますます収益を上げるようになっているのに、雇用しようとしない。これが貧富の差を拡大している一因でもある。

ネット企業のうち、特に大成功しているところは、売上に応じた雇用をするように促す必要があるように思う。そして、しっかりと報酬を支払い、それにより消費を促すことが大切。現代産業の問題は、稼ぐところが雇用しようとしない点に大きな問題がある。

新たな税制を考えるのも一つかもしれない。売上、あるいは利益に比べて雇用が少ないと見られる企業の法人税を高くする、雇用している企業は法人税を低めに設定する、というような。特にネット企業は、人手が不要なサービスが多く、利益が少数の人間に集中しがち。こうしたところに税制で雇用を促す。

政治とは、放置しておけば社会の歪みが大きくなるのを是正し、マシにするのが使命だと思う。なぜ歪みを放置するのがよくないか?歪みを放置すれば、場合によっては革命のようなラジカルなことが起きかねないから。

戦前にマルクス主義が台頭し、自由が失われる国が続出したのは、自由主義のまま歪みを放置したからだと思う。貧富の格差を放置した結果、怒り、恨みが蓄積し、革命の原動力になった。マルクス主義は、自由主義が生みの親のように思う。

自由主義や新自由主義の人たちは、マルクス主義や共産主義を蛇蝎(だかつ)のように嫌う。歪みが巨大化しても、巨大化するままに任せればよい、やがて神の手により是正されるから、と考えるからこそ、是正の結果、マルクス主義、共産主義を生むという皮肉な結果となる。

私が自由主義や新自由主義を嫌う理由は、それが共産主義や独裁主義などの不自由な体制を生み出す原動力になるからだ。私は自由を好むからこそ、新自由主義の放置プレイを危うく感じる。格差を放置するから、不自由で窮屈な社会を招くことになる。

私は、格差是正にだけ気をつけるが、なるべく要らざる介入は避ける、というケインズ的な修正資本主義が無難だと考えている。ただし、戦後昭和な大量生産大量消費は避けた、修正ケインズでなければならないけど。

冒頭の4つの点に注意して、バランスを欠いていると思われたら介入する、という経済システムが望ましいように思う。あまり細かなことには口を出さないという意味で、アダム・スミスの意見に同意。しかし歪みが大きい場合は是正、というケインズの意見に同意。

これからの時代は、冒頭で指摘した①労働力の確保、②報酬の確保、③消費の確保、④目新しさの確保、の他に、⑤省エネ・省資源・二酸化炭素排出ゼロ、を追加し、そのいずれもがバランスを失わないようにすることが大切なのではないか、と思う。

そうして、国民になるべく広く厚く収入が行き渡るようにすることが、食料安全保障には大切。食料難の多くは、食料がないから起きるのではない。食料が目の前に溢れていても、それを購入するお金がないから起きる。それだけの経済力を一人一人に確保することが大切。

ベーシックインカムの議論でしばしば欠けがちと思われるのが、「①労働力の確保」の視点。たとえお金を配っても、商品やサービスを提供してくれる労働がないと、商品やサービスは手に入らない。

いかに労働力を確保し、報酬が行き渡るようにし、消費を促し、しかし地球環境に負荷を与えない、というバランスをとる必要がある。それには、不断の観察と、必要最小限の介入が必要。私の考える経済は、面倒くさくて美しくなく、野暮ったい。けれど、そういうのが大切な気がする。

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