石油の「儲からない資源」化問題

人類にとって厄介なこと。それは、「石油が儲からない資源になり始めている」こと。
石油が利用され始めた頃は、噴水のように石油が吹き出していた。この時代は、採掘に1のエネルギーを投じたらその200倍のエネルギーが得られた(EROI=200)。しかし現代は10倍を切り始めている様子。

シェール革命とひと頃騒がれたが、シェールオイルは水などを地下に注入するためのエネルギーが膨大で、石油エネルギーは10倍程度しか得られない。このため、投資家にとっては「割の合わない商品」になりつつあり、石油に投資することを見合わせるようになり始めている。

石油を採り続けるには、古くなった設備を更新しなければならないのだが、投資が集まらない。石油会社も及び腰。かなりのお金を投じても10倍程度のエネルギーしか得られないなら、儲からない。このため、特にシェールオイルに関しては、油田が放棄され始めているという。

ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー危機が起こり、アメリカのバイデン大統領は石油採掘への投資を呼びかけている。しかし投資家は及び腰だという。もし国際情勢が回復したら石油価格が下落するかもしれない。もし国際情勢が悪いままでも、大して石油が採れないのでは見込みが立たない。

それと比べると、自然エネルギーは採算性がかなり向上している。太陽電池を製造するのに1のエネルギーを消費しても、10倍以上のエネルギーが取り出せるようになった。だとしたら投資効率はこちらの方がいい、ということで、投資家は自然エネルギーに投資しても、石油に投資しなくなり始めた。

この状況が、実は厄介。2つ問題がある。まだまだ私達の文明は石油を必要としている。自動車や田畑を耕すトラクターなど、動力のほとんどがいまだに石油エネルギーで動いている。天然ガスや石炭さえほとんどシェアがない。普及し始めてるかに見える電気もシェアがない。動力のほとんどが石油依存。

石油が足らなくなると、輸送機械が動かない。電気自動車は乗用車程度しか動かせず、大型のトラックやトラクターを動かすにはパワー不足。動力を動かすのに、いまだ石油ほど優れたエネルギーはまだない。クルマだけでなく、船も飛行機も石油でしか動かせないのが実態。

もう一つの問題が、「バッテリーのパワー不足」。乗用車サイズの自動車なら電気でも動かせるようになったが、大型トラックやトラクターは無理。これらを動かすには、電気エネルギーを大量に貯められるバッテリーの開発が必要だが、まだ画期的なものは生まれていない。

リチウム電池はかなり優秀だが、1リットルの石油が抱えているエネルギーの5%程度しか貯められない。現在開発中の電池の性能を調べても、石油に遠く及ばない。体積あたり、重量あたりの抱えられるエネルギー(エネルギー密度)で、石油は圧倒的に優秀。

これほど優秀なエネルギーである石油が採れにくくなり、投資家からそっぽを向かれるようになり、その結果、余計に石油が採れなくなり始めている。石油は今後、採掘量が急速に低下する恐れがある。しかし石油に代わる技術はまだ育っていない。いないのに現実が先行して動き始めている。

石油に頼れない社会は、エンジンを積んだ乗り物の多くが動かないことを意味する。田舎で作って都会に運んで高く売る、というビジネスモデルは、石油が高騰しても成立するのか?
私達の社会は大きく変容するだろう。私達はいま、そのとばぐちに立たされている。

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