化学農薬が(安価に)製造できなくなる未来

化学農薬については、「危険性はない」とか、「やっぱり危険だ」とか、いろんな意見がある。私は、田畑以外の場所に化学農薬が広がらないようにするのなら、化学農薬は使って構わないと考えている方。化学農薬は環境にはよくないが、人体にはさほど悪さをしない、と考えている。
だがその一方で。

そもそもそう遠くない将来、化学農薬を(今のように安価に)使えなくなる時代が来るのではないか?という心配をしている。石油の時代が、いよいよ終わろうとしているのではないか、と感じるからだ。

化学農薬は、石油を原料に製造されている。ガソリンや軽油などの燃料に加工する際、ついでに化学物質の原料となるナフサというのを製造している。このナフサから様々な化学製品が製造されている。化学農薬だけでなく、プラスチックも。石油が安いおかげで、化学農薬も農業用ビニールも安く手に入る。

しかし、石油が「エネルギーとして意味のない資源」に変わりつつある。昔は採掘に1のエネルギーを投資したら、その200倍のエネルギーの石油が採れた。しかし近年は10倍を切ることも。そして3倍を切ると、エネルギーとして意味がなくなる。ガソリンとかに加工するにもエネルギーが必要だからだ。

石油がエネルギーとしての意味を失ったとき、化学農薬やプラスチックなど、石油化学を前提とした仕組みが崩壊する恐れがある。というのも、こうした化学製品は、天然ガスや石炭から製造するには、ずいぶんと手間とコストがかかるからだ。石油化学のような「工業生態系」を作るのは難しい。

もし石油がエネルギーとして意味をなさなくなれば、ガソリンや軽油といった燃料を製造することが難しくなる。すると、燃料を製造する「ついで」で作れた化学原料を製造できなくなる。天然ガスや石炭では、コストが跳ね上がる。ということは、化学農薬もプラスチックも価格が跳ね上がる恐れがある。

石油化学が維持できなくなれば、化学農薬をそもそも今のように安価に製造できるのか?もしそれが難しいとなれば、今のように化学農薬に頼った農業が続けられるのか、心もとない。それに、農業用ビニールや樹脂製の網も製造できないとなると、害虫を防ぐことは非常に困難になる。

石油がエネルギーとして意味をなさなくなる時、それは化学農薬や農業用資材が安価には製造できなくなることを意味する。しかし現在の農業技術は、それが使えることを前提で組み立てられている。もし化学農薬を思うようには散布できなくなった時、農業生産は維持できるのか?

石油がエネルギーとして意味をなさなくなるまで、恐らくあと数十年の時間しかない。その間に何らかの方法を生み出さなければならない。しかしここで注意が必要なことが。「石油以外のエネルギーが確保できればいいのだな」と思ったら、大間違い。石油は化学原料としてあまりにも優れていた。

最初から液体で、さまざまな化学製品に加工しやすい原料は、石油以上のものは存在しない。天然ガスや石炭から化学原料を製造するのは容易ではない。太陽電池や原発は電気しか作れないから、原料を提供することさえできない。石油は化学原料として極めて優秀な物質でもあった。

石油がエネルギーとして赤字の物質に変わってしまったとしても、原発などのエネルギーで石油を無理やり採掘し、化学原料として使用する、ということはあり得る。しかしその場合でも、かなりのコストがかかることだろう。今の石油化学で化学製品を安く製造できるのは、燃料を作る「ついで」だからだ。

原発の電力で無理やり石油を採掘する場合は、量が限られているし、ガソリンなどに加工するのは「もったいない」ということになるだろう。となると、石油の取扱量は現在よりも大幅に減る可能性がある。となると、石油化学コンビナートを大規模に動かすほどの稼働率にならないリスクがある。

となると、やはり石油を原料にして化学農薬を製造するにしても、かなりのコスト高になる恐れがある。石油がエネルギーとして意味をなさなくなった時、現在の化学工業の相当部分が「コストが高くて見合わない」ものが増えてくる。化学農薬も果たしてどうなるか。

化学農薬は、石油文明と宿命を共にしている。化学農薬を使用できるのは、果たしていつまでのことなのか。石油がエネルギーとして採掘できる間に、化学農薬を滅多に使えない状況でも食糧生産できる技術を開発しなければならないかもしれない。

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